◆様々な動物との比較や人体の成長の過程なども
人体の特殊性を理解するうえで様々な動物の構造を調べて対比させる「比較解剖学」の観点による展示も多い。例えば心臓の場合だと、哺乳類、爬虫類、魚類の心臓の比較から循環器系の成り立ちが見えてくる。下記画像のキリンの胃は4つの部屋に分かれる「複胃」で、その大きさや構造には驚く。
「運動器系」のエリアでは骨と筋肉の働きを理解する展示が並ぶ。「ヒトの骨格標本」は明治時代に作成された日本人男性(左)とヨーロッパ系女性(右)の2体が並んでいるが、プロポーションや骨の太さなどから人種や性別の特徴がよく表れている。
「人体の発生と成長」エリアにある、「カーネギー発生段階とカーネギー標本」も興味深い。ヒト胚の成長をステージ1の受精から、胚子期の終わりのステージ23まで、段階に分ける指標が20世紀初めにアメリカで開発された「カーネギー発生段階」。論文が出版されたときに掲載された石膏鋳造による精巧な模型が展示されている。
最新技術を駆使した21世紀の人体研究も紹介されており、ゲノム解析による縄文人の顔相の復元や、4Kスーパーハイビジョンの映像で見る体内の世界、超ミクロの世界を電子顕微鏡で撮影して着色したまさにアート作品と言える「体内美術館」として展示している。
第2会場の「人体の設計図」エリアでは、DNAの総体であるゲノムのデータから復顔した「船泊23号の人骨」および「複顔像」が展示されている。こちらは北海道礼文島の船泊遺跡で出土した、およそ3800年前の縄文人女性の臼歯から抽出したDNAを分析して複顔したもの。
【AJの読み】私たちの体はどうなっている?を追求してきた人類の足跡がわかる
1995年に開催された国立科学博物館の特別展「人体の世界」はプラスティネーション技術による標本が衝撃的で今でも鮮明に覚えている。今回もヒトの臓器標本が展示されているが、囲いで覆われており、希望しない人は見ないで済むような形になっている。
篠田副館長が話していたように人体研究の歴史は科学の発達の縮図。ルネサンス時代から最新技術による体内映像まで、自分たちの体がどうなっているのか、一番身近な神秘の世界を解明しようと挑戦してきた人類の足跡を見ることができる展覧会だ。
文/阿部 純子
■連載/阿部純子のトレンド探検隊