■曖昧な引き継ぎの問題点
入社2年目の秋頃も仕事が忙しかった。定年退職した人の仕事を、僕が引き継ぐことになったんです。衛星からの送受信のための機器を生産メーカーから仕入れ、通信関係を扱うメーカーにそれを卸す、うちは卸売のようなビジネスも手がけていて。前任者から十分な引き継ぎの時間がない中、その業務を一人でこなすことに。卸元の生産メーカーや卸先の通信機器を扱うメーカーの担当者に連絡を取り、一つ一つ教えてもらったのですが、戸惑うことがかなりありました。
例えば、卸し先から突然、注文書が来る。「これなんですか?」問い合わせると、「仮注文と一緒ですね」とか、先方の担当者に言われまして。
仮注文って何だろう、よくわからない仮注文書を、うちの会社の稟議には上げられないぞと思ったりして。とりあえずきちんとした見積書を作らなければならないと、生産メーカーに見積書を依頼したり。
また、新たな取引先からは衛星からの送受信の機器の引き合いが来ているんですが、どの案件がどこまで進んでいるのか。管理シートを一から作って。滞りなく納品できるようにしました。
上司からほめ言葉はほとんどありませんでしたが、その上司も実はすごい。自分の意見を曲げない力があって、それが仕事の面で生かされると大きな成果につながります。
例えば、従来のアンテナはお椀型のパラボラアンテナを、衛星の方角に向けないと通信できなかった。ところが平面のアンテナを使い、ソフトウェアで電波の方向を制御する、衛星通信では画期的な技術を海外から導入し、国内で展開していこうと。最初に先頭に立ってプロジェクトを推し進めたのはその上司でした。とても僕には真似できない推進力があります。
将来的にどんな管理職になりたいかと聞かれれば、同じ部署の人たちが気持ちよく仕事ができる、そんな環境を作れる上司と答えますが(笑)。
仕事の引き継ぎにもう少し時間が欲しいなどの要望もありますが、でもその分、いろんな経験をさせてもらいました。この会社に入ってけっこう適当、あまり理解しなくても、いっちゃえみたいな性格が少しは治った。いい意味で細いことができる人間になった気がしています。
取材・文/根岸康雄