20代の部下の仕事への熱いマインドを中間管理職者は理解しているか。彼らとの良好なコミュニケーションはそこから始まる。若い人にとっても、同世代がどんな仕事に汗を流しているのか。興味のあるところだ。この企画は入社3~5年の社員の話にじっくりと耳を傾け、そのモチベーションを紹介する。
第12回目は多摩動物公園飼育展示課、北園飼育展示係、チンパンジー担当、田口陽介さん(25才)入園3年目だ。
■チンパンジーとの握手の仕方。
子供の頃から動物が好きでした。犬や鶏や熱帯魚やいろんな動物を飼っていた。動物飼育系を専攻した大学時代、上野動物園でボランティアやアルバイトを経験して。卒業後は東京動物園協会という組織に籍を置き、多摩動物公園には嘱託として配属になり、昨年正規採用になりました。
嘱託として配属になってすぐに、担当動物はチンパンジーと決まり、びっくりしました。お客として見ている時は運動場も広いし、いい展示だなと思いましたが、まさか飼育する側になるとは……。
多摩動物公園のチンパンジーは、アフリカから来た個体や園内で繁殖した個体、他の動物園から来た個体を含め、国内の動物園では最大の18頭を飼育しています。まず大切なのは「馴致」という作業。つまり、すべての個体とコミュニケーションをとることです。「握手をして」「頭を触らせて」、メスは「お尻を見せて」と。触れば熱があるかどうかがわかりますし、メスはお尻の感触で、発情しているかどうかがわかる。体調管理の面からもスキンシップは重要です。
チンパンジーはでかい。怒って毛を逆立てるとさらに大きく見えます。爪の厚さは人間の3倍、力も人間よりはるかに強い。「事故は絶対にあってはならない。気をぬくな」、これはチンパンジーの飼育係に配属になった時から、上司や先輩に言われ続けていることです。すべては鉄格子を挟んでの作業ですが、動物を逃さないように鍵のチェックは必ず飼育員が二人で確認する。
最初に注意されたのはチンパンジーとの握手でした。常に手の甲に触れる。それがチンパンジーとの握手のやり方です。手のひらを握って万一、捕まれ猛烈な力で引っ張られたら、怪我をする恐れがあるからです。
チンパンジーは人を識別しますから、僕のような新入りは4人の飼育員の中でも、一番下に見る。先輩と同じように格子越しに手を入れ「握手して」と、手の甲を触ろうとしても無視されたり。僕の手を引っかこうとしたり、ツバをはきかける子がいたり、声をかけても無視され続けて。
「どうすればいいんでしょう」と、先輩に相談したんです。時間が必要だとアドバイスをされ、「やり方を替えながら、付き合い方を自分なりに見つけていきなさい」と。