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■Introduction
遂に完成したザ・キット屋のオリジナル、サンバレー『SV-S1616D/300B仕様キット』8万5320円(税・送料込)の真空管を差しかえて、その音色の違いを楽しむ球転がしをやってみたい。もともとも拙宅にあるオリジナルのWesternElectric「300B」を鳴らすためにこの真空管アンプを製作したのだから。
「300B」とくれば整流管は「274B」が定番なのだが、本機は「5AR4/GZ34」である。正確に言えば、ダイオードモジュールを採用しており、これを傍熱管の「5AR4」に差し替えられる仕様になっている。大橋店主に問い合わせたところ、直熱管の「5U4GB」に差し替えるのは、一般的にNGで最悪電源トランスが断線するとのこと。『SV-S1616D/300B仕様』は整流管のヒーター巻線が3Aあるため問題ないが、出力電圧が下がるので音色の変化が予想されるそうだ。また「274B」はコンデンサーインプット容量が10μF未満と低い値になり整流管の消耗が早くなるので基本NGとのこと。皆さんは整流管を使う場合は素直に「5AR4/GZ34」を選んでいただきたい。ただし、試聴に使った『PSVANE 274B』は「5U4G」と同じ仕様で作られた互換管である。外観は274Bで中身は5U4Gという整流管なので『SV-S1616D/300B仕様』に使っても問題はない。
出力管の「300B」に関しては、今回、入手した『PSVANE 300B』、そして『NATIONAL Electronica NL-50』と本家『WestenElectronic 300B』の3種類を差し替える。
■Impression 274B
そもそも整流管で音が変わるのかという疑問がある。整流管は交流を直流に変換する時に必要な部品で、トランジスタアンプではダイオードがその役目を担っている。直熱出力管はハムノイズが出やすいので直流点火が定番、それ以外は交流点火でもいいらしい。しかし、300Bの音は交流点火こそ本物という説もあり、ややこしい。最終的には自分で聴いて決めるしかないだろう。今回は試験的にダイオードモジュール、「5AR4」、「5U4GB」、「274B」の順番で差し替えた。
左がキット付属のダイオードモジュール、右が指定の整流管「5AR4」、そして中央にあるのがエレハモの「5U4GB」である。
左がオリジナルの『WE274B』、右が『PSVANE 274B』である。復刻モデルの方が大きくて立派なのだ。
シャーシに挿すと300Bよりも274Bの方が目立つという存在感の強い球だ。
出力管を『PSVANE 300B』にして、整流管の音を聴いた。ダイオードモジュールを使って宇多田ヒカル「あなた」(96kHz/24bit)を再生すると透明感があってクリアーな音になる。低域はタイトでスピード感がある。音場は左右に広い。これがトランジスタアンプなら確実にいい音なのだが、真空管アンプらしくない音とも言える。真空管アンプの音のイメージは人によって違うと思うが、ドイツのハイエンド真空管アンプメーカー「OCTAVE」風の音とも言える。これを「5AR4」に変更すると、途端にレトロな音になる。輪郭はやや甘く、ザラザラした質感、響きは減って、S/N感は悪くなる。これが整流管の音なのだろうか。音場は狭く、低域よりのバランスでしっかり芯のある音。「5AR4」は出力管よりも明るく輝き、シャーシの上で一番目立つ存在となった。
エレハモの「5U4GB」に交換すると、真空管のサイズは大きくなるが、ヒーターはやや暗く仄かに光る。先ほどより情報量が増えて、低域と高域のバランスも良くなった。ボーカルは伸び伸びとして奥行き感が出た。音色はウォームで音の輪郭はわずかに滲んだような感じだ。同じ真空管でもかなり音は違ってくる。『PSVANE 274B』に交換する。大きくて立派な整流管だ。低域も高域もなめらかで、落ち着いた感じのボーカルになった。『WE274B』ではボーカルの線がやや細くなる。手嶌葵「I Love Cinemas -Premium Edition-/Calling You」(96kHz/24bit)のボーカルのかすれた感じがいい。次はメーカーの違う「5AR4」を探してみたい。