■バカだからじゃないの?
「それって、バカだからじゃないの?」とは、先輩ではなく、父の言葉です。先輩に壁の厚さ等の数値のミスを指摘されて、「すみません、やり直します」と謝ると、「最初だからしょうがないよ、みんな失敗するもんだ。めげずに頑張りなよ」と、声をかけてもらいまして。
「もっとちゃんと確認しないとダメだよ。自分は必ず間違えるものだと思いなさい」先輩にそう諭されたのは、しばらくして仕事に慣れてきた頃でした。
病院の耐震診断の案件では、図面上で気になる箇所のコンクリートの一部抜き、その健全性等を確認する作業も行いました。「壁を確認する作業は、土日にしてほしい」とか、病院側の注文は多かったのですが、3ヶ月ほどで耐震診断を終わらせることができ、納期を守ることができて。診断に基づき、補強しなければ壁が一部崩壊したり、ベントハウス部分が倒れたりする危険性があることも、指摘しました。
最初の仕事で失敗は色々とありましたが、短い期間の中で耐震診断をまとめたことは、私にとって成功した案件という思いを持っています。
現状では新築案件より、既存の建物の補強とその設計の仕事が多いんです。私が次に取り組んだのも、甲信越のあるスーパーの立体駐車場の補強設計でした。埼玉県内の病院の案件は耐震診断でしたが、立体駐車場はすでに別の会社が診断を済ませていた。私たちはその診断に基づき、立体駐車場の補強を設計するのが仕事だったのです。しかし、
「あれ、よくわからないぞ……」
受け取った診断のデータを精査してみると、おかしい部位が何箇所も見つかったのです。早速、部署の先輩たち3人で現地調査に出向きました。黄色いヘルメットをかぶり、立体駐車場を調査してみると。
ひび割れが入っている壁、床のコンクリートは削れていて、鉄筋が見えている部分もある。柱が異状に細くて、現行基準の法律では使用禁止の部材を使っているところもありました。補強を重ねたところは図面とサイズが違っていたり、図面自体が残っていない補強箇所もありました。
「50年ぐらい前に建てたものかもね……」
そんなことをつぶやきながら、調査をしたのですが。
なにやらお化け屋敷にでも踏み込んだ印象だが、施主のスーパー側は補強をして、できるだけ今の立体駐車場を残してほしいという注文だった。さて、坂東さんたち構造設計のグループはどんな悪戦苦闘をこなしていくことになるのか。詳細は後半で。
取材・文/根岸康雄