某社の電動歯ブラシを使い始めて10年以上が経つ。正直満足しているのだが、「KISS YOU」という歯ブラシを使ってみたら、驚くほど歯がツルツルになったのだ!
どうやらマイナスイオンの効果らしいのだが……どうしてキレイになるのだろうか? 疑問に思ったので大学の先生に訊いてみた
■先生、なぜマイナスイオンで歯垢が落ちるのですか?
マイナスイオンが歯垢を落とすなんて信じられない。この疑問を晴らすには大学の先生に教えてもらうのが早い。そこで、東京歯科大学の眞木先生に話を伺った。
東京歯科大学の衛生学講座教授。2017年5月31日から6月2日まで、山形市で開催される「第66回日本口腔衛生学会・総会」の学会長を務める。
−−先生、リチウム電池内蔵イオン歯ブラシで磨いたら歯がツルツルになったんです。マイナスイオンって歯垢を落とすんですか?
眞木先生:いえいえ、マイナスイオンが歯垢を落とすわけじゃないんですよ。
いきなり筆者の勘違いだったのか? マイナスイオンが歯をツルツルにしてくれるワケではないようだが……。
−−でも先生、本当に歯がツルツルになったんですよ。
眞木先生:そうですか(笑)。それでは分かりやすいように歯をタテに切ったモデルを使って説明しましょうか。歯には歯髄というものがあって、神経や血管、リンパ管などが通っています。その周りに象牙質があって、その周りを非常に硬いエナメル質で覆っています。
−−なるほど、歯ってこんな構造だったんですね。
眞木先生:そして歯垢(デンタルプラーク)はエナメル質の周りにこびり着くんですよ。それを歯ブラシや歯磨き粉を使って磨き落とすんです。
眞木先生:磨き落とした歯垢をうがいなどで口外へ流してしまうのですが、その時に流しきれない歯垢が悪さをします。歯垢とはそもそも細菌の塊(かたまり)なんですね。
−−えっ、食べかすではないんですか?
眞木先生:はい。歯垢は食べかすの中で細菌(口腔常在菌)が増殖したものなんです。そして、ブラッシングでエナメル質からはがしても口の中に残っているんですよ。それがまたエナメル質にくっついてしまうんですね。
−−つまり、歯垢を歯ブラシで落としただけではダメだと……。
眞木先生:そういうことです。ではなぜくっついてしまうのか? それはイオンが大きく作用しているんです。細菌の表面はマイナスが帯電しています。それに対して歯の表面もマイナスに帯電しているんです。そのままですとマイナスとマイナスが反発して、細菌は歯につかないことになりますよね?
−−そうですね。磁石みたいなものですよね。
眞木先生:歯の表面のエナメル質はカルシウムやリンなどからできています。すごく硬い物質なのですが、使っていくうちに表面が摩耗して削れてしまいます。それを補うために唾液(だえき)の中にはカルシウムやリンが含まれているんです。
カルシウムは二価のプラスイオン(Ca2+)になっていて、そのプラスイオンが間に入ることで細菌とエナメル質がくっついてしまうんです。
−−ちょっと難しかったですが、なんとか理解しました(笑)。ということは、歯ブラシや歯磨き粉の性能・品質とは関係ないんですか?
眞木先生:そのようですね。そこでリチウム電池内蔵イオン歯ブラシが効力を発揮するんですよ。歯ブラシの出すマイナスイオンにより唾液が吸い寄せられ、歯垢と歯が電気的に反発して着きにくくするんです。
−−どのような検証をされたんですか?
眞木先生:大学生10名を対象として1992年に検証しました。構造が全く同じで一方はマイナスイオンを発生し、もう一方はマイナスイオンを出さない歯ブラシを2種類用意して、被験者にダブルブラインドテストを行いました。3か月間テストを行ったところ、マイナスイオンを発するリチウム電池内蔵イオン歯ブラシを使った被験者は明らかな清掃効果の向上がみられました。しかも、原因菌が多い人ほど効果が高かったのです。
−−そうですか。強く磨けば落ちやすいんですか?
眞木先生:ブラッシングの強さ(圧)とは関係ありませんね。ただし、虫歯予防にはフッ素が重要なので、歯垢を落としたらフッ素で歯をコーティングしてあげるとなお、良いと思います。
頑固な筆者も物理的・化学的に説明をされて納得した。どうやら、マイナスイオンが歯垢を着きにくくするというのは、効果の程度に差こそあれ、間違いないようだ。
ではなぜ、今までリチウム電池内蔵イオン歯ブラシに出逢えなかったのだろうか?
その疑問は次章、メーカーの工場訪問で解決することにしよう。