■鉄板をハンマーで叩き反射板を試作
開発を決めてから1年半、千石は試行錯誤を繰り返すことになった。遠赤グラファイトの光が強く拡散しないことから、一部しか焼けなかったのが最大の理由だ。「反射板を工夫して全体的に焼けるようにすることが大変でした」と千石氏は振り返る。
中の反射板の角度を変えて遠赤グラファイトの光の反射角度を変えては、パンを焼いてテスト。最初の頃は焼きムラが目立ち、美味しくもなかった。開発スタッフは鉄板をハンマーで叩きながら反射角度を変え、パンを焼くことを繰り返した。
このような試行錯誤の末に結果たどり着いたのが、後方を丸くすることだった。こうすることで、光の反射が均一になり、パンがムラなく焼けるようになったという。「いくら美味しくても見た目がキレイでないと、美味しく見えません。焼き上がりの見た目にはこだわりました」と千石氏は振り返る。
焼き上がりは、パンの裏側に焼き色が目立たないのが特徴だという。表側を先に焼いて表面を固め、水分が飛ばないようにした。裏側にあまり熱を通さないことで、外はカリッ、中がモチモチとした食感になった。
焼き上がったトースト。表面は焼き目がしっかりついているのに対し、裏面は焼き目が控えめなのがわかる
また、遠赤グラファイトそのものも、暖房機用とは仕様を変更した。変更したのは、暖房機用をそのまま使うと光が強すぎるためで、中心を光らせないようにしたのだ。シート状の遠赤グラファイトには、表面全体に細かいスリットが入っているが、暖房機用と違い、シート中心部にスリットを入れず光らせないようにしたという。
「熱は中心に集まる性質があるので、中心部を光らせないようにすれば均等に温まります。中心部にスリットを入れないようにしたことで、パンを焼いたときのコゲが減りました。それに、遠赤グラファイトはシート状ですから、加工が簡単です」と千石氏。さらに遠赤グラファイトは、色温度を上げやすいことから、暖房機用と違い高温の白色とし、調理に最適な近赤外線に近い中赤外線にした。
この結果、一般的なトースターより高い280℃まで温度を上げることができるようになった。この高温により、パンを焼くだけでなく様々な調理ができるようになったのである。