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世紀のヒット商品『写ルンです』の〝ルン〟の意味、知ってる?

2018.01.03

◎連日、社運を賭けた会議が行なわれていた

『写ルンです』が売れに売れていた頃、デジタルカメラの技術が進化しつつあったのだ。このままでは、フィルムがなくなる――。そこで同社は対策をとった。まず、フィルムの技術をデジタルが簡単に追いつけないまでに高め、同時にデジカメを自社開発した。これに加え、新たなコア事業を探し始めたのだ。そして、世界の写真フィルムの需要がピークを迎えた00年に社長へ就任した古森重隆現会長は、同社の今後を占う鍵となった作業を行なった。石川氏が話す。

「〝持っている技術の棚卸し〟をしたのです。フィルムで培った特殊な技術の中で、世の中にないものは何か。富士フイルムが世界的規模で強い技術は何か。さらには、それで何がつくれるのかを議論し続けました」

 当時、古森氏には連日のように、全社から膨大なデータが届いていたという。そして連日、社の今後を決める重要な会議が入っていたそうだ。

 そんな作業を通し、首脳は注力すべき分野を絞った。そのひとつが、液晶パネルの生産に欠かせないタックフィルムの製造だ。透明性の高さと優れた光学特性を必要とするため、まさに同社が突出した技術を持つ分野だった。また、当時はプラズマテレビなど様々な表示デバイスが競合していたが、古森氏はデータを収集し「コスト面の優位性をもとに液晶が普及する」と読んだ。そこで同社は05年、『写ルンです』のヒットなどで得た事業資金を千数百億円規模で投入し、熊本にタックフィルムを生産する「富士フイルム九州」を設立。社運を賭けた決断だった。

 しかも、これだけではなかった。周囲が「(会議の)アウトプットはそこですか!?」と驚いた逸話すらある医薬・化粧品事業への進出だった。

 ただし、技術的な裏付けはあった。石川氏が話す。

「例えば、写真の色あせの原因になる『酸化』は、体の老化の原因とも深く関わっています。我々のコア技術のひとつだった抗酸化技術が役立つのです。ほか、酸化に対しては『アスタキサンチン』という天然成分が有用なのですが、水に溶けず、化粧品には使いにくいものでした。しかし当社のナノテクノロジーを使えば、細かい粒にし、肌への高い浸透性を実現できます。もちろん、コラーゲンの技術も活かせます」

 石川氏は医薬品の事業分野でも同様だったと話す。

「フィルムの素材を化学合成してきた技術が生きる分野です。また、ナノ技術も生きます。実際に今、ガンが栄養を取り込む部分をふさぐ医薬品も研究しています」

 しかし簡単に本業が転換できるわけもない。化粧品のマーケティングを担当する武田靖子氏が話す。

「弊社は〝新参者〟です。例えば化粧品のマーケティングでは、『富士フイルム』という社名を出すかどうかが大きな議論になりました。社員や外部のアドバイザーから『〝富士フイルムの化粧品〟ではユーザーが戸惑う』という意見が多数出てきたのです」

 だが武田氏らは熟考する。仮に子会社をつくり、知名度が低いその会社の名で、営業がバイヤーを訪ねたとしよう。会ってさえもらえないかもしれない。だが、富士フイルムの名があれば、フィルムで築いたブランド名もあって「なぜ化粧品に?」と聞いてもらえる。するとナノ 技術などの説明ができる――。そんな経緯で同社は化粧品『アスタリフト』の製品パッケージやポスター、CMに、堂々「フイルム」の文字がある社名を出すと決めた。

 一方、同時期に『写ルンです』やフィルムの市場は同社の予想を超える速さで縮小していった。02年頃から毎年20~30%もの落ち込みを記録したのだ。だが、古森氏はこう宣言した。広報の高林由希子氏が話す。

「富士フイルムは、写真文化を守り、さらなる発展を目指す、と内外に伝えたのです」

 そう、彼らはこの後、進出したすべての業種で目覚ましい業績を挙げ、07年には過去最高の連結売上高、約2兆8468億円をたたき出す。だが同社は、この快進撃が、写真フィルムの技術をもとに成り立っていることも意識していたのだ。

 今後、時代の移り変わりによって、様々な企業が業態転換を迫られるだろう。そんな時、過去の事業はどうすべきなのか。その答えがここにある。会社の本当の資産は、技術力、ブランド力だ。これが次の事業を生む。ゆえに、これを簡単にたたんではならない――。

 こうして世紀の名機『写ルンです』の生産は続いた。

●化粧品『ASTALIFT(アスタリフト)』シリーズ

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アスタキサンチン配合の『JELLY AQUARYSTA』など、現在、21品目・29商品を発売。「ブランドカラーの赤は、当時化粧品のパッケージでは珍しい色でした」(武田氏)

◆カラーフィルムの世界総需要推移

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石川氏いわく、80年代後半は「部屋の中でストロボを使わず顔を撮影できるのはフィルムかデジタルか」と議論されていた。だが、デジタルの性能が向上し、フィルムの需要は左図のように落ち込んだ。

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