■理想の響きを求めて無垢材からスピーカーを作る
ハイレゾ時代に求められる理想のスピーカーはユニット以外から音を出さないことである。DACが再生した音を正確に伝えるトランスデューサとしてのスピーカー。そこに音の個性は求められない。と言ってもこれはハイエンドの場合で、実際問題としてオーディオシステムの中でスピーカーによる音色の変化が一番大きい。さらに部屋の影響を受けるため鳴らす部屋やセッティング、スピーカーまでの距離など様々な要因によって同じスピーカーでも、1つとして同じ音を出していないのが現状だ。
理想に近付けるためスピーカーのエンクロージャーをガチガチに固めていくと、つまらない音になる危険性が高まる。コンクリートとかFRPとか樹脂系の素材とかアルミの骨組みなどを使っても完全に響きを抑えることは出来ず、その素材の音がユニットから出る音に乗ってしまうのだ。極限まで抑えようとすればスピーカーは巨大になり重さは100kgを超えるだろう。これと逆の道を行くのが、響きを活かす木製エンクロージャーである。どうせ響きが抑えられないなら、キレイな響きを乗せようという現実的な考え方である。古くはタンノイ、新しくはソナス・ファベールなど。MDFを使ったスピーカーも響きをコントロールしようとう意図がある。弦楽器がボディを鳴らすようにエンクロージャーをうまく鳴らして魅力的な音色を作る。やりすぎるとどんなジャンルの音楽を聴いても、その音が乗ってくると感じられるようになる。
今回のスピーカーはフロントバッフルに厚さ3cmもある無垢板を使い、余計な響きを抑える方向で設計されている。もともとオーディオ評論家の石田善之氏が雑誌「Stereo」の8cmフルレンジユニットを鳴らすための企画で作った小型スピーカーがベース。フロントバッフルは自宅にあったカシミール・ウォールナットが使われていた。このスピーカーの出来映えが非常に良かったため、製品化しようという動きがあり、「Stereo」出版元の音楽之友社のお膝元にある神楽坂の家具工房「アクロージュ ファニチャー」とのコラボモデルという形で実現した。
フロントバッフルはブラックウォールナットの無垢材で厚さ3cmもある。スピーカーユニットを取り付けたときにツライチになるようザクリが入るというこだわりようだ。
リアバッフルもラウンド仕上げの無垢板でスピーカー端子もツライチになる。