◎全員経営を支える社訓〈ヤマトは我なり〉
ヤマト運輸の成長を支えている秘密は何なのか。
「小倉さんは、背が高い人でしてね。支社長など役員には厳しい人でしたが、私たち社員にはやさしい方でした。小倉さんのロジックは大変わかりやすく、例えば『安全第一、営業第二』ということをよく口にしていました。もうひとつは『全員経営』です」(北村氏)
全員経営――これはヤマト運輸を特徴づけるキーワードだ。実は、社訓にもそれを象徴する言葉がある。
〈ヤマトは我なり〉
「自分自身がヤマト運輸の代表である、との意識を持て」という意味だ。
この精神はドライバーの名称にも表われている。ヤマト運輸のドライバーは、あえて「セールスドライバー」(SD)と呼ばれているのだ。ただの運転手ではなく、セールスをするドライバーである。
「現在、6万人のSDがおりますが、彼らは日々、直接お客様と対面しています。つまりニーズを一番わかっているんですね。ゴルフ宅急便など、現場の声から商品化されたものが多いのもヤマトの特徴ですが、これはSDひとりひとりが、ヤマトを代表しているという気持ちで、仕事に向き合っているからだと思っています」(北村氏)
例えば最近では、「高齢者の見守り支援」や、「高齢者世帯向けリコール製品回収の取り組み」という新しいサービスが始まっている。これも現場発だ。
ヤマト運輸の強みは「お客様に直接届けるネットワークを持っていること」だと北村氏は言う。ならば、そのネットワークを生かして、サービスを重層化できないか。そういった発想から生まれたのが、「見守り支援」や「リコール製品回収」というわけだ。地域に根ざしているSDが、高齢者に声をかける。あるいは、リコール品の情報を自宅に届ける。人と人とのつながりが、新たなビジネスへと昇華しているのだ。
◎成果一辺倒でなく〝人柄〟で社員を評価
しかし、SDによる手厚いサービスは、ビジネスの効率化と逆行するはずだ。
「私はそれでいい、と考えています。効率を第一に考えると、需要者が置き去りになってしまいがちです。あくまで『サービスが先、利益は後』なのです」
ヤマト運輸は、社員評価でも実績や成果だけで評価しない。社員同士が評価し合う「満足BANK」などの制度を利用して、特に〝人柄〟を評価するようにしているのだ。
なぜならば「人材」こそ、ヤマト運輸の宝であり、財産であると考えているからだ。ゆえに、社員教育や社員評価にも、じっくりと時間をかける。正社員の割合も多く、従業員約16万人は日本でもトップクラスだ。
「お客様へのサービスを第一に考える姿勢、全員経営というスタンスは、これからも変わりません。これは私たちに刻まれたヤマトのDNAです。一方で、ニーズは刻一刻と変化しています。東南アジアで国際クール宅急便を始めたのも、ニーズ対応のひとつです」(北村氏)
荷物の配達方法や受け取り方の選択肢を広げるため、他社も巻き込んだ取り組みも検討しているという。今年1月に40周年を迎えた『宅急便』の進化は、これからも続いていくに違いない。
●社員のやる気を引き出す「満足BANK」の仕組み
「満足BANK」とは「お客様、社会、仲間に喜んでもらえるために何ができるか」を各自で考えるために始められた〝満足創造運動〟。(1)お客様からのお褒め、(2)仲間からの評価、(3)目標に対する自己評価、をポイント化し「満足BANK」に貯めていく。ポイント数に応じて、銅→銀→金→ダイヤモンドのバッジがもらえる。
1983年入社。福井主管支店長を皮切りに、長野主管支店長、構造改革部生産性推進課長、埼京主管支店長、執行役員北信越支社長などを歴任。2015年4月より常務執行役員。