■競争の質が低い
中小企業では、大企業のような毎年の定期人事異動がほとんどない。大企業の場合は、部署や職種により多少の違いがあるが、多くの社員が通常は3年~5年で他部署へ異動になる。これで全社の業務が大きな問題なく進むのだから、社員の採用・定着・育成が一定のレベルをクリアしていることを意味する。
言い換えると、社員間の競争の質が高い。異動が毎年、大規模にできることは、社員のスキルや技術などの共有ができているとも言える。一方で、中小企業では大規模な異動が毎年はできない。これは、各々の社員が独自のスキルや技術などを持ち、そこに共有するものがあまりないことを意味する。これでは、社員間の競争意識が高くはならず、わずかのスキルを持つだけで「俺はすごい!」と思い込む可能性が高い。スキルや技術などの共有が進むと、実はそれはたいしたものではないことを本人が自覚するはずだ。
中小企業の社長の中には、「常に自分は正しい」と思い込んでいる「お山の大将」のような人がいる。これと似ている社員が、中小企業には目立つ。私が接する出版社の編集者の場合、大手の出版社(3~5社)、中堅(15~20社)、それ以下の中小(30~50社)と規模が小さくなるにつれて、発言の内容や態度が横柄になる傾向がある。例えば、わずか数年の経験で、業界や自社を語り、批判までする人は中堅、中小出版社に目立つ。
特に中堅・中小の出版社の編集者の場合30歳以降になると、少なくとも大手の同世代の編集者よりも、発言内容などがはるかに過激になり、挑戦的になる人が多い。まさに「常に自分は正しい」と思い込んでいる「お山の大将」のようになっている人もいる。つまり、このレベルの競争の中、長く残った人が、やがて役員や社長になる傾向は少なからずあるのだ。
■優れた一面をもっている
それでも、中小企業で役員や社長になるのは苛酷なことではある。周りの社員のレベルが必ずしも高くはない。辞めていく人は多い。賃金をはじめ、労働条件は大企業に比べると見劣りする。オフィス環境なども、大企業には追いつかない。こういう中、毎日、きちんと出社し、ある程度のペースで仕事をし、不満を抱えたとしても長く残ることは全員ができることではない。忍耐や根気、協調性、温厚な性格、心の広さなどを兼ね備えていないと、残ることはできないはずだ。その意味では、中小企業の社長や役員は、優れた一面をもっている。勤務する会社の規模を問わず、会社員が見習うべきではないだろうか。
文/吉田典史
ジャーナリスト。主に経営・社会分野で記事や本を書く。近著に「会社で落ちこぼれる人の口ぐせ 抜群に出世する人の口ぐせ」(KADOKAWA/中経出版)。
■連載/あるあるビジネス処方箋