■連載/ヒット商品開発秘話
明治が2016年9月に一新した『明治 ザ・チョコレート』の売れ行きが好調だ。
現在7種をラインアップしている『明治 ザ・チョコレート』は、産地ごとのプレミアムなカカオ豆を使い、それらの風味や特性を生かしてつくったスペシャリティチョコレート。カカオ産地での栽培、収穫、処理、選別、品質管理から製造まで一貫してかかわる「ビーン・トゥ・バー」によって誕生した。カカオ産地ごとの風味や特性を生かした味づくりをはじめ、これまでの板チョコレートにない個性を発揮したこともあり、2017年3月末までに2000万枚以上の売上を記録したほどである。
■農園づくりから始まるチョコレートづくり
同社は90年前から、チョコレートをカカオ豆からつくってきた。長年にわたりビーン・トゥ・バーを実践してきたわけだが、『明治 ザ・チョコレート』誕生を語る上で無視できないのが、「明治カカオサポート」だ。カカオ豆の収穫量を増やす栽培方法や、高品質を実現する独自の発酵法などを農家に指導するもので、農家が同社の指導通りにカカオ豆づくりをしてくれれば、継続して購入する。
菓子商品開発部スペシャリティチョコレート担当 マネージャーの宇都宮洋之さんによれば、同社がここまでする理由は、カカオ豆の生産に直接かかわらないとチョコレートの味づくりが人任せになってしまうため。同社が考える美味しいチョコレートをつくるには、農園づくりからかかわって良質なカカオ豆を生産・入手することが不可欠だった。
■カカオの面白さを打ち出す
産地の指導先から仕入れる良質で美味しいカカオ豆を利用し、同社は、世界で通用する大人の嗜好品としてのチョコレートづくりを目指すことにした。そのために打ち出すことにしたのが、カカオの面白さ。素材と加工の仕方で味が変わってくるカカオの魅力を伝えることにした。
しかし、同社が嗜好性のチョコレートを手がけるのは、今回がはじめてではない。1986年の『コラソンカカオ』から始まり、以来、何度となくチャレンジしてきた。だが、どれも営業面で振るわなかった。2014年9月に、リニューアル前の『明治 ザ・チョコレート』を発売するが、これも営業面で苦戦する。
2014年9月に発売された、以前の『明治 ザ・チョコレート』
嗜好性のチョコレートが苦戦してきた理由の1つが、日本ではミルクチョコレートのシェアが約60%と高いこと。ミルクを使わないダークチョコレートのシェアは20%弱しかなかった。
そこで、現在の『明治 ザ・チョコレート』をつくるに当たり、同社は「ダークミルク」という新カテゴリーを打ち出すことにした。砂糖を減らす代わりにカカオとミルクを増やした、大人向けのミルクチョコレートをつくることにしたのである。
しかし、社内はダークミルクに懐疑的で、ミルクチョコレートをやるなら定番の『明治 ミルクチョコレート』を強化するべき、という意見が多数を占めた。カカオにこだわる嗜好性のチョコレートなので、ある意味当然の反応だったが、その一方で、嗜好性のチョコレートはこれまで成功していないという現実もある。ミルクチョコレートのシェアが高い市場の現実をデータで示し、『明治 ミルクチョコレート』を食べていない大人を取り込むという理由から、「ダークミルク」への理解を得た。