■3年で社長が4人も交代する絶不調の会社
「実は、創業から3年ほどの間に4人も社長が交代していたんですよ」
穏やかな表情の藤野社長は、開口一番にさらっと思いもよらぬことから語り始めた。
アイデクトは創業が2004年。ジュエリー部門は事業部として2008年に設立された。
設立当時はリフォームを主業務としていたが、苦境が続いており社長が4人も交代する混迷の状況であった。
「最初は表参道に店舗があったんですよ。でも、そちらもなくなってしまいましたけどね」
ジュエリーのリフォームが儲かるとタイトルでうたっていながら、いきなり儲からない話になってしまったが、藤野社長が5代目社長に就任した2009年から、アイデクトは破竹の勢いで成長を遂げることになったのだ。藤野社長はアイデクトを、日本初のジュエリー・貴金属のアセットマネジメントを行う企業へとリモデルさせた。
「女性でジュエリーを持っていない方は、ほとんどいないですよね。特にたくさんもっていらっしゃるのがシニア層です。ジュエリーはかさばらないので、貯まっていく一方です。一説で日本には60兆円ものジュエリー資産(アセット)が眠っているというんです。そのアセットマネジメントをするために、アイデクトの方針変更をしたんです」
現在、日本の新品のジュエリー市場は1兆円程度だといわれている。しかも、バブル期が3兆円だったことを考えれば1/3になってしまったのだ。藤野社長はこの状況も憂慮する。
「1兆円の売上になってしまうと、新品を販売するジュエリー店が売れ筋の商品しか店頭に置けなくなってしまうんです。そのため、似たような型で似たような価格帯の商品ばかりになってしまいます」
そのため、ジュエリー市場のシュリンクが加速してしまっているというのだ。
一方リユース(再販売)、リフォームはタンスなどに眠っているジュエリーを含め60兆円もの背景がある。この巨大休眠資産をなんとか活用したいというのが、藤野社長の願いであり、アイデクトを方針変更した大きな理由なのだ。
「ただ、眠っている資産とはいえ、放って置いてはいつまでたっても起き上がりません。その理由の1つはお客さまが迷っている資産だからです」
迷っている資産とはどういうことなのだろうか? 質問するこちらが迷っていると、笑いながら藤野社長が説明する。
「ジュエリーには大きく分けて3つの分類があります。1つはデザインが古くて使っていない、いつ売ってもいいジュエリー。もう1つは結婚指輪など絶対に売らないジュエリー。最後が迷っているジュエリーです。迷っているジュエリーの中に相続や贈与など、思い入れのため手放しにくいものがあります。ジュエリーのリサイクルや売り市場は、新品販売の減少に伴って、ここ最近は縮小しています。昔から質屋さんやジュエリーの買い取り店は存在しますが、苦戦している。その理由は『迷っているジュエリ−=資産』を取り込めないからです」
なぜ迷っているジュエリーを取り込めないのか? 藤野社長はその理由を「相談できないから」とした。
「売ろうかリフォームしようか、質屋さんや買い取り店では通常、細かな相談はできません。そいう『相談するニーズ』が顕在化していないマーケットなんです」
アイデクトは店頭でジュエリープランナーが2時間も接客することがあるという。しかも、一度の接客でリフォームや買い取りなどを行うとは限らない。しかし、筆者が東京・二子玉川にあるアイデクトの店舗を取材したところ、平日の日中にもかかわらず客足が途絶えることはなかった。
相談時間は予約ができて、その予約はビッシリと埋まっている。それはまるで病院のようだ。そう、アイデクトはジュエリーの病院ともいえる。