◎悪気なく備品を持ち帰っても「横領」に当てはまる可能性がある
ここからは具体的な事例に沿って、横領にあたるかどうかを考えてみたい。例えば、会社で大量に余っていた付せんを持ち帰るのはどうなのか。巽先生は以下のように解説する。
「この場合では、会社から、どのような形で預けられているかがポイントになります。会社が従業員のデスクの中で付せんを管理することを認めているのであれば、占有は従業員にあります。しかし、それを持ち帰ってしまうと、会社は業務に使用するために付せんを預けたのであり、その目的に反することを行うことになりますので、無許可で持ち帰った時点で横領に該当することも考えられます」
この他、給湯室にあるお茶っ葉を自宅へと持ち帰る、会社の経費で購入した資料用の参考図書を持ち帰り転売してしまうなど、一見さりげない行為でも横領や窃盗に当てはまる可能性があるようだ。
では、出張に使う交通費を立て替え、個人のマイレージを貯める行為は、犯罪に該当する可能性があるだろうか。
「この問題については、横領にはならないという見解もあります。もっとも,また別の罪である背任罪に当たる可能性もあります。背任罪とは、与えられた任務に背いて、自分や第三者の利益を図り、または本人に損害を加える犯罪です。会社内で懲戒処分等、民事上の責任追及がなされうることも考えると、会社の許可なくこのような行為はしない方がよいといえます」
記憶に新しいのは、2008年頃に国家公務員によりマイレージの私的利用が取り沙汰された問題である。この点については「税金の横領にあたる」などとして全面的に禁止となったが、民間企業では判断が分かれるのも事実である。
そして、営業などで使う交通手段については、車を私的利用した場合でも、その程度いかんによっては、横領に該当する可能性があると巽先生はいう。
「この件については、過去の判例が参考となります。大阪高等裁判所で1971年11月26日に判決がなされた事件では、短時間での使用のみを許可されていたにも関わらず8日間に渡り私用として車を使っていた者が罪に問われました。
この事例を前提とすれば、例えば、車で営業活動をしている際に、休憩のためにコンビニへ立ち寄るなどは許されるかもしれませんが、会社の委託の範囲を超えてあまりに長時間、私的な利用をすれば、横領に該当する可能性があります。私的な買い物をするため、営業者で遠方までいくようなことはやめた方がよいでしょう」
実際、法的な解釈は個々の案件によるものの、いずれにせよ、身近な中にも横領に当てはまりかねない事例は潜んでいる。