■5Gを体感。そして高速スラローム体験
心は完全に高揚していた。大丈夫、このフライト体験を楽しめる…そんな気分でいると、またまた課題を室屋選手が提供する。
「では、ループ(宙返り)します。加速の瞬間は5Gくらいになりますよ」
機体は一時降下し、そこから急上昇で円を描くように宙返りをする。降下から上昇に切り替わるタイミングでGがかかる。5Gとは、体重が5倍になる感覚で、実際に体感すると頭からグリグリとシートへ強烈に押さえつけられているようだった。声なんか出せないし、血の気も失せる。楽しいことは楽しいが、ここまでくると体がついてこない。
「最後にエアレースと似た動きをしますね。地上のパイロンをすり抜けるイメージで、左右にスラロームします。はい、行きます!」
室屋選手が参加する「レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ」は、地上15mを時速370km、10Gの世界で競技する。その疑似体験なので、恐らく切り返しの反応速度は1割にも満たないだろう。にもかかわらず、切り返す瞬間は体が左右に持って行かれるというよりは、横からひっぱたかれたかのような衝撃だ。
「バンッ、バンッ、バンッ…」
切り返す度に叩かれる。痛い。
■フライト終了。足が震えて力が入らない。
楽しくも厳しい、10分ほどのフライト体験も終了。着陸後に滑走路を抜けてエプロン(駐機施設)へと戻る。エンジンが停止し、機体も停止。コクピットを覆っていたキャノピーが開けられて無事帰還を果たした。シートベルトなどの安全装備を外してもらい、機体から地面へと降り立つが、足がガクガク震えてまともに立っていられない。楽しかったので心はウキウキしているけれど、体は悲鳴を上げているようだ。
これで5Gレベル。レースでは10Gになるというのだから、想像を絶する世界だ。このような過酷な環境でも冷静に機体をコントロールし、世界中の猛者達と渡り合っている室屋選手のタフさに心服する。
正直、吐き気もある。心もカラダも楽しむためには、並々ならぬ訓練を重ねなければいけないと思った。いや、訓練してもムリかもしれない。
3次元のモータースポーツとは、実に過酷な世界だ。機体を降りた後、室屋選手を見る目は一変した。ひたすら尊敬の一念である。
■関連情報
http://www.redbullairrace.com/ja_JP
文/中馬幹弘 写真/江藤義典
編集・ライター。アメリカンカルチャー誌編集、アパレルプレスを経た後、モノ雑誌に長く関わり携帯電話やデジタル製品、ファッションなどトレンド情報に明るい。証券会社勤務があり金融事情通でもある。