〈油汚れ用〉では、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの2つのアルカリ剤を配合した。2つのアルカリ剤を配合すると洗浄力が強力になりすぎるため、洗浄力を保ちつつ危害性を下げるには、アルカリ剤をブレンドするノウハウが不可欠。どこでもできるというものではなく、ビルメンテナンス用品で扱い慣れている同社ならではの処方だった。
また、〈バス用〉は大量のキレート剤(金属封鎖剤)を配合した。キレート剤はミネラルを介して汚れを分解するもの。水アカ、湯アカ、石けんカスはもちろんのこと、こすっても落ちない青ジミといった強力な汚れを徹底的に分解する。
そして〈多用途〉は、処方の組み立てが最も困難だった。それは、他社のマルチクリーナーと比較して洗浄力は強力にしながらも、危害性は落とすことが求められていたためであった。組み立てた処方は、アルカリ剤とキレート剤のブレンド。界面活性剤も工夫して油汚れと風呂場の汚れのほか、ビニール壁紙の黄ばみやヤニ汚れなども、傷つけることなく安全に落とせるものにした。
処方は以上のように決まっていったが、決まるまでは社内の関係者や主婦モニターによるテストを繰り返した。得意分野である〈油汚れ用〉と〈バス用〉は1、2か月ほどで処方が決まったが、〈多用途〉は処方が決まるまでに4か月ほど要した。
■ナレーターにこだわり制作した販促用動画
『ウルトラハードクリーナー』シリーズは、主戦場であるホームセンターを中心に配荷。そして、発売から半年ほどキャンペーンを行なった。実際に使ったユーザーの生の声を聞くべくアンケート調査を実施。購入目的、洗浄力の評価、一般ユーザーかプロか、などを尋ね、協力者の中から毎月5名に賞金をプレゼントした。
その結果、購入者の約85%が洗浄力に「満足」し、ユーザーはほとんど「一般人」であった。一般家庭向けにつくったものとはいえ1000円を超える高価格品なことから、同社は当初、プロの購入が多いと予測していたが、プロが仕事で使うために購入したのは数%しかなかった。「一般ユーザーの購入が圧倒的に多かったのは意外でした」と山田氏。この結果は、既存の洗剤の洗浄力に満足していなかった一般ユーザーが多かったことを示すことになった。
売れ行きは、発売開始と同時に飛ぶように売れ、追加生産を行なっても追いつかなかったほど。発売当初に欠品を起こしてしまったほどだった。現在でも品薄感を払拭するまでに至っていないという。
スタートダッシュに成功した最大の理由は、店頭販促用につくった動画にあった。店頭勝負のホームセンターで動画は販促のマストアイテムといえるものだか、力を入れたのはナレーターの声。声にこだわったのは、同社の鈴木信也社長のアイデアだったという。
「ホームセンターでは普通、動画は商品の前まで来てくれないと見てもらえず、見てもらえないことには商品も注目されません。しかし、聞き覚えのある声でナレーションを入れれば、ホームセンターのように大きな音が色々入り交じった中でもお客様に届きます。聞き覚えのある声に惹き付けられて動画を見ようとしてくれると、そこに商品がそろっていて、イメージもしやすくなります」と山田氏。ナレーターの選考基準は、聞き覚えがある声であると同時に、騒々しい中でも通る届く声の持ち主。選考の結果、『世界の果てまでイッテQ!』のナレーションでおなじみの立木文彦さんを起用した。立木さんの起用が当たり、動画は大いに注目されるところことなった。