■実は“名ばかりの管理職”
中小企業やベンチャーで20代で管理職になっても、大企業の部長や本部長のような人事権や予算、予算決定権を持つ管理職になる可能性は低い。実際のところ、大企業でいえば、課長の下の課長補佐の下の「主任」レベルに近いはずだ。ちなみに、大企業では主任のことを管理職とは呼ばない。そもそも、20代で管理職になる人が多い会社は、社長や一部の役員らが、全社員の人事権を完全に掌握している場合が多い。だからこそ、20代の社員を抜擢できるのだ。言い換えると、20代の管理職は“名ばかりの管理職”であるケースが多く、20代の非管理職の社員と扱いはさほど変わらないはずだ。
■人件費の管理
多くの企業にとって、人件費のコスト管理が重要な課題となっている。全社員の人件費を厳密に管理するためには、管理職全体の人件費を一定額できちんとコントロールすることが前提となる。その1つの方法として、管理職に昇格させた後、残業代を「管理職手当」で処理しようとする。例えば、月に80時間を働いたとしても、毎月数万円の管理職手当を支払い、その手当に残業代が含まれるとする会社もある。
本来は、管理職であろうとなかろうと、残業したらその全額が残業代として支給されなければならない。「サービス残業」という言葉は誤りなのだ。「サービス」=「奉仕」であってはならないのだ。あくまで賃金を代価として得る労働である。ところが、このあたりを曖昧にして人件費を管理しようとする会社は、今でも多い。20代の管理職が誕生する背景には、人件費の管理が厳しくなっているという事情もある。
日本の企業では、管理職に昇格させようとする時に、厳格な審査が行なわれることが少ない。これは、大企業から中小企業まで、共通して言えることである。非管理職の頃の人事評価や勤務態度、上司の推薦、入社年次、年齢、性別、今後ののびしろなどを含め、検討はされているはずだ。しかし、部下を持つ身になる、つまり、マネージャーとしての適性や資質、潜在的な能力などを、責任ある立場の複数の人がきちんと見定めた上で判断したのかというと、そうとは思えない場合が多々ありそうだ。20代の管理職が生まれる背景には、こんな歪んだ「管理職登用」の文化が存在する。
文/吉田典史
ジャーナリスト。主に経営・社会分野で記事や本を書く。近著に「会社で落ちこぼれる人の口ぐせ 抜群に出世する人の口ぐせ」(KADOKAWA/中経出版)。
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