■連載/【社長の横顔】西武鉄道代表取締役社長・若林 久さん
埼玉県有数の観光地・秩父や、ベッドタウン・所沢市を沿線に抱える西武鉄道。2004年、有価証券報告書の虚偽記載によるスキャンダルが発覚したが、その後、同社は大改革を実施。「スマイル&スマイル室」を設置して人気アニメとのタイアップを実施、ほか『西武 旅するレストラン 52席の至福』などの企画乗車券を発売。これらの施策により、鉄道会社の営業指標である「定期外旅客数」は上昇の一途をたどる。この改革の旗振り役が、社長・若林久氏だ。
■厳しさの中にあった「学び」
「友人と『死ぬかと思ったよな』と振り返ることもしばしばです(苦笑)」
大学時代、若林は早稲田大学『空手道誠心会』に所属していた。厳しくて有名で、上下関係は“絶対”。彼が苦笑交じりに振り返る。
「たとえば1年生の時のこと。菅平(長野県)で合宿していた時、先輩が突然『山に登るぞ』と言いだしたんです。どう考えても、綺麗な山を見て思いついただけのことでしょう(笑)。しかも、防寒性などまったくない道着姿で『1年生は頂上まで走れ』という」
先輩は1年生が走るあとを、竹刀を手に歩いて登ってきた。頂上は凍えるほどに寒く、下山後には仲間の一人が倒れ、救急車で運ばれた。ただし若林は誠心会で貴重な学びを得たという。
「先輩のなかには、その人が何か言っても周囲が動かず、40年以上経てもなお反発されている人がいます。逆に、何か話せば周囲が一斉に動き、今も慕われている先輩もいます。私は、その違いがわかったのです」
若林の話をまとめると、こうなった。
「率先垂範、いつも笑ってベストを尽くせ」
「悪いことは、どれだけエライ人がやってたことでも“悪”と主張し曲げるな」
「極力多くの部下と交わり、部下が動きたくなる“機運”を創り出せ」
――なぜ、上記3か条が大切なのか。彼に長いサラリーマン人生を振り返ってもらった。