◆業界に36年間携わった石井社長が語る、今後のお墓業界について
「とかく葬儀、お墓業界は長年慣習によって守られてきた業界で、お客様からはわかりにくく、価格が不明瞭と思われている。3プライスのお墓を立ち上げたのは6年前だが、当初は業界内やお寺さんからも非難があった。しかし私たちは戦いを挑むつもりでこの事業を立ち上げ、お客様も私たちのシステムを理解していただいてお客様の方から動いていただいたこともあり、お墓業界の空気感は、この2~3年で大きく動いているという印象を受ける。
現代の大半の方々は、お経を頻繁に聞くこともないし内容も理解できず、心から仏教に帰依しているとはいえないが、ご家族が亡くなるとお墓を建てるという慣習は根強くあった。業界はそれに乗っていただけなのではないか。10年ほど前から団塊の世代の方々がお客様の中心になり、お寺や葬儀、お墓の意味を改めて考え始めたのではないだろうか。社会で意識されるようになってマスコミに取り上げられることも多くなり、今までのやり方でなくてもいいんだという風潮が生まれたのではないかと思う。
墓地を買ってお墓を建てるのがほぼ100%近いやり方だったが、今はいろいろな選択肢ができて、今後はもっと選択肢が広がると思う。それが極端に進むとなんでもありのような状況になるかもしれない。しかし、遺骨や故人に対する特別な思いは日本人には今も強くあり、その時に改めて日本人の倫理観が出てくるのではないかと思っている。
20年ほど前の旧聞だが、悲嘆から立ち上がるためのケアであるグリーフワークについての調査が興味深かった。40歳前にご主人を不慮の事故で亡くした女性を、アメリカ人、日本人各30人に、カルフォルニア大学と日本の慶応大学が共同で追跡調査をしたというもので、アメリカ人はキッチンドランカーになったりドラッグにおぼれたり、精神的に追い込まれる人が7~8割にも及んだが、日本人はそういった人はほぼおらず、時が経つにつれ自然に悲しみから癒されたという。
慶応大学名誉教授であった故・小此木啓吾さんとカリフォルニア大学のジョージ山本さんが両者の違いを検証されたところ、当時の日本では仏壇が当たり前にあり、日本人の奥さまは仏壇の前で『あなたは向こうで何をしているの』と問い掛けをしていた。そうすると奥さまだけに『子どもたちのことは頼んだぞ』などの声が聞こえると言い、死者は今でも身近にいると感じていたという。一方、キリスト教徒のアメリカ人は『帰天』という死んだ者は天国に行くという考え方だが、どこにいるのか残された人にはわからない。この違いが関わってくるのではないかという内容だった。
墓も仏壇もいらないという考え方の方にも、一部を遺しておくことをお勧めしたい。5年、10年経ったときにやっぱり必要ないという気持ちになれたなら、その段階で散骨しても遅くはない。後で後悔するほど辛いものはない。
墓石があるから対話できるのではなく、一部を遺すことによって故人を偲び、思いをはせることができるし、故人から見守られている感じがずっと続くのではないか。宗教に則らない、故人を偲ぶそれぞれの方法でいいと私は思っている」
【AJの読み】家族や親族と話し合って納得できる選択を
私の場合、父と兄弟を亡くして母一人が存命なので、今後、墓をどうするか考え始めているところだ。帰省した際には墓じまいについて母と相談することも多い。私自身は、墓は要らないと思っているので散骨を希望しているが、家族が散骨についてどう思っているのか話したこともないので、タブー視せずにきちんと互いに理解して納得できるようにすることが必要だろう。
墓を守るのか、墓をしまうのかは個々の事情によって大きく異なる。墓じまいの手続き一切を代行してくれて、かつ遺骨の一部を遺すというまごころ価格ドットコムの新サービスは、今後のお墓のあり方を考えるうえで、業界に大きな一石を投じたと思う。
文/阿部 純子
■連載/阿部純子のトレンド探検隊