■リスクを恐れる
だが、厳しい環境で生きてきた人は、女性社員に対しても遠慮なく叱る傾向がある。会社を創業し、売上10〜30億円まで成長させてきた経営者には苦労人が多い。それだけに、女性社員に対しても情け容赦なく怒る。当然、男性社員にも厳しい。だから、辞めていく若い社員も後を絶たない。
ここまで大胆にできるのは創業経営者であり、大株主であるからだ。社内で怖いものがないからなのだ。多くの会社員ではまずできない。女性を怒鳴りつけ、それが問題になったとき、どうすることもできない。労働組合などに話を持ちこまれると、窮地に追い込まれる。多くの上司は、前述の創業経営者のような強力な権限も権力を持っているわけではない。結局は「言いやすい部下」に厳しく言うほうが得策だと判断している可能性が高いのだ。
万が一、こんな本音を口にしてしまうと、ひんしゅくをかうから、男性社員にはこう言う言葉をかけるケースが多い。
「君はモノになるから、俺は厳しく言うんだぞ」
「お前に期待をしているから、厳しく叱るのだ」
ところが、経験の浅い、ピュアな男性社員は「俺は期待をされている」と信じ込んでしまう。だから、上司は味をしめてエスカレートする。ついには「男性社員には厳しく、女性社員にはストレートには言わない」と、堂々と言うようになる。
こういう上司が多数いる職場は、得てして問題が多い。人事評価の基準があいまいで、多くの管理職や非管理職に、それが浸透していない。つまり、人事部も機能してないのではないだろうか。役員などが必要以上に人事権を握り、その意味での権限を人事部に委譲していない可能性がある。
このような体制で業績を維持・拡大していくのは難しいだろう。本来は、性別に関係なく、ミスをしたことに対しては、上司として指摘することが必要だ。あまりにも大きなミスの場合、時には厳しく叱ることも大切だ。
ところが“嫌われたくないから”それをしない男性が多い。もし、女性の部下を今後の貴重な戦力と位置づけるのであれば、厳しく指導することも必要だろう。心当たりのある管理職だけでなく、近い将来、管理職になるであろうポジションの方には、考えてほしいことだ。
文/吉田典史
ジャーナリスト。主に経営・社会分野で記事や本を書く。近著に「会社で落ちこぼれる人の口ぐせ 抜群に出世する人の口ぐせ」(KADOKAWA/中経出版)。
■連載/あるあるビジネス処方箋