■社員が一人辞めたところで会社は困らない
ほとんどの会社は一人の社員が退職したところで、大きな影響はない。一人の社員に頼らなければいけないような日々の業務は、一定のスピードで進んでいかない。業績を維持することも上げることもできないのだ。
誰かが退社した、という噂も数週間以内に消えていく。一年もすると、名前すら忘れ去られていく。それが社長や会長であっても退任して1か月もすると話題にならなくなるものだ。新社長の下、何事もなかったかのように、毎日が流れていく。むしろ、このようなサイクルにならないと、会社というものは成立しない。組織であるからこそ、ひとりの社員が辞めると言い出したところで、あえて引き止める必要がないのだ。
■前々から準備がされている
辞めたい、と意志を伝える人には迷いがあったはずだ。仕事や人間関係に不満を感じたり、上司や役員に批判的な思いがあったのかもしれない。その思いは、周囲の社員や上司などに多少なりとも伝わっていたはず。もしかすると、上司のほうも心の準備ができていたかもしれない。すでに、その社員が辞めた後、欠員をどうするかというところまで考えているかもしれない。すでに幹部や人事部と相談をしていたかもしれない。それぐらいの準備ができなければ、組織のマネジメントはできないだろう。
「辞める」と意志を伝えた後、上司などから引き止めてもらい、そのまま居残り、言い分や考えを受け入れてもらおうと考えることはしないほうがいい。ほとんどの会社の場合、受け入れられる可能性は低い。
他の社員にも言い分はあるし、上司や役員にもある。一人の社員の言い分だけを受け入れることなどできないものだ。それでも不満を抱くのなら、会社員ではなく、自営業や個人事業主の道を選択したほうが賢明だ。もちろん、会社員でいることだけが社会人の生き方ではない。広い視野で考えてみよう。
文/吉田典史
ジャーナリスト。主に経営・社会分野で記事や本を書く。著書に「封印された震災死」(世界文化社)、「震災死」「あの日、負け組社員になった…」(ダイヤモンド社)、「非正社員から正社員になる!」(光文社)、「悶える職場 あなたの職場に潜む「狂気」を抉る」(光文社)など、多数。近著に「会社で落ちこぼれる人の口ぐせ 抜群に出世する人の口ぐせ」(KADOKAWA/中経出版)も好評発売中。