■連載/あるあるビジネス処方箋
会社員が「辞めます」と口にしたらどうなるか。企業を取材をしていると、役員など幹部がが一社員に対して「辞めるな」と真剣に引き止める会社はほとんどない。直属の上司が「残る気はないのか」「考え直す気はないのか」などと声をかけることはあっても、「引き止め」というレベルのものではない。むしろ、淡々と退職の手続きがなされるものだ。今回は私の取材経験などをもとにその理由について考えたい。
■組織の一員ではない
「会社は利潤を追求する戦闘集団」
十数年前、取材で著名な経営学者がこう答えた。「戦闘集団」とは、経営者を頂点とした階層の下、上から下に命令が降りそれに沿って業務が進められる、という意味だという。どこか軍隊や警察と似ている部分もある。こういう組織においては、組織の一員であることが重要であり、一員であろうとすること自体に深い意味があるともいう。だからこそ、会社は「価値観の共有」「理念の共有」などを社員に呼びかける。「辞める」といえば、組織の一員とはいえない。少なくとも経営者や人事部、管理職たちはそのように見るだろう。
■いずれ、辞める
「『辞めたい』と言い始めた人を引き止めたところで、どこかのタイミングでまた『辞める』と言い出す」
この言葉も人事部や経営幹部の人たちと話していると、よく聞かれる言葉だ。引き止めた結果、会社に残っても、以前のようには仕事ができなくなる可能性が高い。周囲の社員や取引先の社員たちも色眼鏡で見るようになる。こういう環境で、黙々と仕事をする人はなかなかいない。実際に、私が会社員の頃を振り返ってみても、取材先の会社で聞く場合でも、辞めると言い始めた人のほとんどは3年以内に退職していく。そんな人を引き止めたところで意味がない、と役員や人事部、管理職たちは考えるのだろう。
■組織の秩序を守るほうが大事
辞めるという意志を伝えることは、「こんな会社にはいたくない」「ここに残るのは、嫌だ」という思いを管理職や経営者、人事部に伝えることでもある。国会などで野党が内閣につきつける不信任のようなものだ。「不信任」という言葉は、10年ほど前にベンチャー企業を数年で上場させたことで話題となった経営者が、取材時に話していたことだ。
役員や人事部、管理職たちが、そのような社員に「残ってほしい」と頼んでしまうと、組織の秩序が乱れてしまう。不信任をつきつけた社員に頭を下げたのでは、他の社員や取引先、株主にも示しがつかない。会社の秩序を守る上でも「辞める」と言い始めた社員を引き止めたりしないのは当たりまえのことなのだ。