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【仕事の処方箋】脳梗塞から復帰した社員を待ち構えるもの

2016.03.15

■退職勧奨を受ける可能性がある

 孤立してやる気を失うと、ミスが増え、職場で浮いた存在になりがちとなる。その状態が長く続くと、上司、人事部、役員たちが退職勧奨をする場合があると聞く。たとえば、こんなことを言ってくることがある。

「あなたはこのままウチの会社にいても売上拡大に貢献することはできない。安心して仕事を任せることもできない。そろそろ、身の振り方を考えてくれないだろうか」

 これは、会社としてあなたの扱いに困っている、という意思表示であり、暗に「辞表を書いてもらえないか」と言っているのだ。もちろん「解雇」を意味するものではないが、会社としては退職してほしい、という意思を伝えることは法的に問題ではない。ただし、会社員は、それを拒むこともできる。退職勧奨を受けた時、辞めるか否かを決めるのは、社員自身である。会社にそのまま残りたいのなら、「私は辞めません」と言うべきだ。

 だが、脳梗塞で復帰したものの、長い間、元の状態に戻ることができないでいると、「もう、自分はダメだ」と考えるようになる。そうなると、退職勧奨を受けた時「はい、わかりました。これ以上、ご迷惑をおかけすることができませんね」と辞めてしまうことがある。次に働く会社があるならともかく、収入の目途もないまま退職すると、後々、生活が成り立たなくなる。

 ひとりの社員が脳梗塞の重い症状のまま、あまり仕事ができずに、定年まで15〜20年勤めたとしても、大企業の場合、倒産する可能性はかなり低い。もし、上司などから「辞めてくれないか」と言われたら、「次の就職先を会社が見つけてくれるまでは辞めません」と言い、毎日、出社していればいいのだ。できれば、文書で「私は辞めません」と意思を伝えたほうがいい。つまり、あなた自身が責任を感じる必要はないのだ。繰り返すが、退職勧奨を受けた時、辞めるか否かを決めるのは本人なのだ。

■上層部が突き放すことがある

 脳梗塞から復帰した社員の体調が早い段階で元に戻ると、上司や人事部、役員たちは以前のように扱うことが多い。しかし、回復がスムーズに進まないことがわかると、冷たくなるだろう。その理由のひとつは、自分たちの管理能力を問われることを恐れているからだ。たとえば、労働組合などから「上司が大量に仕事を与えたから疲れてしまい、脳梗塞になった」と追求されることを、警戒している可能性がある。

 あるいは、他の社員から「あの人があんなに仕事をあてがったから、オーバーワークとなり、脳梗塞になったんだ」と噂されるかもしれない。これらは、私が会社員時代に実際に耳にした話である。上司や人事部、役員としては、社内で悪く思われたくないのだろう。敵を作りたくないのだ。だからこそ、脳梗塞になり、回復が遅れる社員から距離を置き、関わらないようにしているのだ。本来はなぜ、その社員は病になったのかを調べて、今後の防止策に生かさなければならないのだが、それがなかなかできていないのが実情だ。

■委縮することなく堂々とするべき

 こういう人や企業を取材をしていて強く感じるのが、病状の程度にもよるが重い脳梗塞になった社員を最後まできちんと守り抜くことをしないケースが実に多いということだ。解雇することは少なくとも中小企業では、「退職勧奨」が頻繁に行なわれていると聞く。大企業でも、社員をリストラする時、「この際、辞めてほしい」と脳梗塞の社員に切り出すことがある。こういう話を聞くと、会社はドライな組織であり、いざという時、信用できないとみるのが、妥当かもしれない。もしも、そんな気持ちになっても、何の遠慮もいらない。堂々と出社して、できるところから仕事をすればいいのだ。いつかは元の仕事に戻れると信じ生きていけば、前途は開かれていくものだ。

文/吉田典史

ジャーナリスト。主に経営・社会分野で記事や本を書く。著書に「封印された震災死」(世界文化社)、「震災死」「あの日、負け組社員になった…」(ダイヤモンド社)、「非正社員から正社員になる!」(光文社)、「悶える職場 あなたの職場に潜む「狂気」を抉る」(光文社)など、多数。近著に「会社で落ちこぼれる人の口ぐせ 抜群に出世する人の口ぐせ」(KADOKAWA/中経出版)も好評発売中。

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