■品質と美味しさにこだわり抜く
しかし、個食に対応できる鍋の素といっても、様々なやり方が考えられる。そのため、まず容器で悩んだという。小袋なども検討したが、なじみがある、開けやすい、ユニークなもの、という視点から、ポーションに決定。ポーションはコーヒーフレッシュやガムシロップでなじみ深いが、調味料では新しさがあることに着目。中身も液体に決まった。
ポーションは大きさがほぼ決まっており、容量は20ml。この量で1人分の鍋つゆをつくるには、水をほとんど使わず高濃度でつくらなければならなかった。幸い同社は、業務用ラーメンスープなどを手がけていたことから、高濃度ブレンド技術を持っている。この技術を生かし、ポーションに詰める中身を開発することにした。まず、定番の〈寄せ鍋〉と〈キムチ鍋〉の2つの味をつくり、定着してからバリエーションを増やすことにした。
中身については、品質にこだわった。石渡さんによると、それはこんな理由からだった。
「瓶やパウチタイプと比べ、ポーションタイプの鍋つゆは未体験の方が多いので、味のイメージがつきにくく、一度食べて美味しくなければ次も食べたいとは思ってもらえません。ポーションで瓶やパウチに負けない味を実現するため、とにかく品質と美味しさにこだわり、薄すぎず濃すぎないギリギリのところを実現するために、何度もつくり直しました」
とくに濃すぎると、生産ラインに支障を来すだけでなく、温度変化によって中の塩分が結晶化してしまう。そのため、つくっては温度変化による品質の変化を検証していくことを繰り返した。
また、品質と美味しさへのこだわりは、既存品のブランド価値を高めるためでもあった。販促を担当するマーケティング部販売促進課長の桑原慶昭さんは、こう話す。
「例えば、当社が発売している瓶の『キムチ鍋の素』のイメージは、濃厚な旨味。『プチッと鍋』の〈キムチ鍋〉でも、これを担保しないと、『キムチ鍋の素』も美味しくないと思われ、ブランドイメージが崩れてしまいます」
エバラ食品工業
商品開発部
新カテゴリー商品開発課長
石渡宏美さん(右)
マーケティング部
販売促進課長
桑原慶昭さん(左)
そのため、研究開発は新たなチャレンジの連続であった。既存の瓶やパウチを超える高い濃度となるため、水で希釈し具材と一緒に調理した際に、鍋つゆの味や風味が最適なバランスになるよう、何度も調理を重ねた。「家庭で食べる瞬間に一番の美味しさを実現できるよう、研究所と一緒に味を設計していきました」と石渡さんは話す。
このようなプロセスを経て、2013年1月にテスト販売を実施。テストの結果、売れ行きが良く、多くの消費者に商品コンセプトが受け入れられた。また、テスト販売の好結果から、ラインアップの追加を決定。3アイテム目の〈白湯鍋〉を開発した(〈白湯鍋〉は現在、〈鶏白湯鍋〉にリニューアル)。