◎言いたくなることはいっぱいありますが、必死で待ちます
そんな佐藤も社長になり、自分がつくるのでなく、社員たちに「つくってもらう」立場になった。最近、変化したことを聞くと、こんな答えが返ってきた。
「我慢強くなってきていますよ(笑)」
佐藤を見ると、喜怒哀楽の「怒」だけが抜けたかのように天真爛漫だ。だが、それは社外向けの顔のようで、「もちろん怒る場面もありますよ」という。
「社員の人格は尊重します。でも、アイデアが浅いときはつべこべ言いますよ(笑)。考え抜いている深さを問います。もっといろんな角度から考えてくれたか? これがベストと決めつけてないか? と問います。そして、自分自身がいい案を決めてしまいたくなることもありますが、必死で部下からの回答を待ちます」
自分がヒーローでは、部下が育たないからだ。
そんな彼は、変わった習慣を持っている。アイデアが湧いたり、人から面白い話を聞いたりすると、それを紙に書き付ける。絵の場合もある。会社にも、自宅にも、書き留めたノートがあって、それは膨大な数に及ぶという。
先に出てきた「自分でできるのは、情報を整理することだけ」という言葉は、この習慣があるから発せられたのだろう。
そして彼は、この習慣を、会社単位で考え始めていた。
「例えば、オフィス用具を販売し、弊社商品も取り扱っていただいている企業があります。その会社の方から『インテリアとしても楽しめるパッケージの商品がほしい』『水は水でも、オフィスの中でこれは私の水、と一目でわかるデザインの水がほしい』と言われたんです。さすが、オフィス用具の企業だからこその発想ですよね。
こういった情報は、活かさなければ機会の損失になります。しかし、流通の人は運べばいい、営業は売ればいい、と考えていたら、この情報は共有できません」
この例であれば、営業が聞いてきた話が商品開発に伝わり、製造の人間を巻き込まなければ、実現できないことだ。
「チームワークがあれば、いい情報は必ず整理され、それは製品になって、世の中をよくするはずなんです」
会社は、それを率いる社長以上の存在にはならない、と言われる。経営は、人格を投影する。
巨大な「好奇心」や「愛情」という名の裾野を広げ、大きな山を作ろうとする。いつも、部下が動き、世の中が振り向いてくれるティッピングポイントを探し、商品や組織を作ろうとしている――。
それが、社長・佐藤章の横顔なのかもしれない。
取材・文/夏目幸明
経済ジャーナリスト。1972年愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店へ入社し、ジャーナリストに。経営者、マーケター取材を主に、現在、週刊現代「社長の風景」、ダイヤモンドオンライン「ヒット商品開発の舞台裏」などを連載。