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「この一匙、作るのが大変!」キッコーマンのフリーズドライの離乳食を生み出した雑談と激論

2026.08.28

 キッコーマンの商品開発部門で働く大嶋麻里子と竹内崇裕が北海道へ出張した時のことだ。訪問先に20分ほど早めに着いてしまった2人は車内で自然と世間話を始めた。すると、たまたま共通点が見つかった。大嶋が話す。

「離乳食」のあり方を一変させた「雑談」

「子どものアレルギーの話になった時、実はうちも……となったんです。社内ではなかなかこういう話にまではなりませんよね」

 中でも「離乳食作りが大変」という話で盛り上がった。赤ちゃんが初めての食材を口にする時は、食物アレルギーに注意しないとアナフィラキシーショックなどを引き起こしかねない。だから初めての食材は小児科へ駆け込める時間帯に少量与え、だんだんと量を増やしていくのが鉄則だ。

「しかも作る工程が大変なんです。野菜は茹でてすりつぶして繊維が残らないように網で裏ごしし、卵は固ゆでにして卵白と卵黄を分け、離乳食用のスプーン半分から1匙ほど与えるんですよ」(大嶋)

 これだけ時間をかけて作っても、赤ちゃんに泣いて拒否されることもある。それでも親は、子どもの食の幅を広げるため、この作業を行なうことになる。

 通常なら「大変でしたよね」と労い合って話を終えただろう。しかしこの時は違った。

 同社は2020年に、社員が新たな事業を提案できる「新規事業チャレンジ制度」を立ち上げていたのだ。仕掛人のひとりである茂木潤一は、設立の経緯をこう話す。

「アイデアって自分の経験や価値観の範囲から出てくるものだと思うんです。一方、当社は世界各国に様々な背景を持つ社員がいます。ならば、みんなのポテンシャルを活かすために全社横断的な取り組みをしようと考えたんです」

 奇遇なもので、2人の出張はこの制度が発表されるのとほぼ同時期だった。大嶋と竹内は「離乳食が絵の具のパレットのよう綺麗に並んでるイメージ!」などと盛り上がり、出張を終えるとすぐ作ってみた。実際に動いてみることは大切だ。竹内が話す。

「私たちの周囲のパパさん、ママさんに味を見てもらおうと思ったら『どうやって持ち帰ろう』となりました。出張の時は冷凍食品を想定していたんですが『それは違うかも?』となりましたね」

キッコーマンの商品開発部門

茂木潤一(もぎ・じゅんいち/右)
事業開発部部長。新規事業チャレンジの仕掛け人。枠に囚われない挑戦の場をつくり、起案者二人の熱量を見守った。

大嶋麻里子(おおしま・まりこ/中央)
『fufumu』代表取締役社長。専門医と共に「はじめてのひとくち」に適した食材量などの商品設計を行ない商品化を主導。

竹内崇裕(たけうち・たかひろ/左)
『fufumu』代表取締役副社長。徹底的なユーザー調査と熱意あふれる姿勢で、社内外の協力者を巻き込み事業化を実現。

冷凍庫はいっぱい、粉末は量りにくい!

 最初の審査を通過すると、2人はアイデアの精度を高める作業を始めた。大嶋が話す。

「私たちの体験から出たアイデアだったので、保護者の方に話を伺い、客観的なニーズを検証したかったんです。また、フリーズドライや粉末など、どんな形で届けるべきかも考えたいと思いました」

 大嶋と竹内はここに時間をかけた。竹内が振り返る。

「いきなり『この商品、どう思いますか?』と聞いても、多くの方は身構えてしまいます。何気ない日常会話から入って友人のような関係になった後で、自然と『離乳食ってどうされていましたか?』と聞くくらいでないと、生活習慣や悩みは聞き出せません」

 そこで彼らは「よく公園に行くんですね」などと話しながら距離を縮めていった。そして何度目かのインタビューで冷凍庫について聞くと「いつもいっぱい」「保存食は普通の棚に入れたい」といった声が集まった。やはり冷凍は「違った」のだ。竹内が話す。

「形にもこだわりました。『粉末だと量るのが面倒』といった声が多かったのでキューブ状のフリーズドライにしたんです。流通段階では崩れにくく、食べる時には水に溶けやすくしたい。この矛盾した性質を兼ね備えたキューブを作るのは大変だったのですが、インタビューのおかげでブレませんでしたね」

 案の精度を高めつつ、審査は次へ次へと進んでいった。多くの案が出ていたが、大嶋と竹内の企画は残りつづけた。茂木が話す。

「新事業は難易度が高いから、仮にアイデアがよくても熱意がなければ実現しないと思うんです。その点、彼らは熱意も強く印象に残りました。つねに私たち審査する側が想像する以上の根拠を持って臨んでくれたんです」

 最終審査は、有名スタートアップのピッチ会場としても使われる社外の施設で行なわれた。大嶋と竹内が壇上に立つと、社外の有識者だけでなく社長もいる。2人が発表を終えると事業化にGOが出たが、この時、もっと緊張する場面が待っていた。

「壇上で記念写真を撮影すると、社長が私たちに『さあ、ここからがスタートだね!』と仰ったんです。一瞬、達成感を持ちそうになっていたんですが、これは身が引き締まりましたね」(大嶋)

冷凍や粉末にせず、フリーズドライ製法に

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fufumu『paqupa(パクパ)』

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新発想のフリーズドライ離乳食。卵黄、卵白、えび、かに、ナッツ類など「はじめてのひとくち」を支援。各6個入1080円~。アレルギーが気になる食材を網羅。売れ筋は生後6か月頃からの「固ゆで卵黄」、8か月頃からの「固ゆで卵白」、1歳頃からの「えび」「かに」「落花生」。

保護者の方々の役に立ちたい!と考えて揃えたラインナップです

竹内崇裕

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