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味も、香りも、隠せないからこそ難しい!サントリー「特水」が切り拓いた新市場

2026.06.11

無味無臭の「水」に機能性を持たせる。その難題に、サントリーの開発陣が挑んだ。味でごまかせないからこそ成分選定もデザインも手探り、支えになったのはユーザーの何気ない一言だった。

試行錯誤の末に見つけた成分「HMPA」と、〝水らしさ〟への徹底したこだわり。ヒットの裏にある執念と哲学が、静かな一本に凝縮されている。今回は、そんな『特水』の誕生秘話に迫る。

サントリー『特水』誕生秘話

サントリー『特水』

『特茶』ブランド新作の機能性表示食品。BMIが高めの方の内臓脂肪を減らすのを助ける「HMPA」を配合。600ml・150円。

色も味も隠しようがない「水」という名の厚い壁

 開発を主導したブランドマーケティング本部の久保洋介によれば、彼は2023年頃から、ある変化に着目していたという。

「私たちは定期的にユーザーの話を詳しく伺っています。その中で、普段の飲料に水を選ぶユーザーが増えていたのです」

 毎日2L飲むと美容・健康にいいらしい、という話も広まっていた。ならば水に「内臓脂肪を減らすのを助ける」といった健康価値を持たせることはできないか。彼はミネラルウォーターやフレーバーウォーターの開発担当である商品開発部のリチャードソン萌に話を持ち込んだ。彼女が振り返る。

「難しそうだな、と思いました。一般的に、何も混ざっていないものを『水』と呼びますが、機能性を持たせるためには、何らかの成分を水に溶かす必要があります。お茶なら、加えた成分の味を渋みや香りで隠せるかもしれませんが、水はそれもできません」

 どこにも知見はなく、開発はゼロからのスタートとなった。サントリーには様々な機能を持った成分を研究する部署があり、彼女はそのチームから提案された成分を一つずつ試した。根気がいる作業だった。「有効成分」といえる必要量を計算し、水に溶かす。この時点では無味無臭に近くても、時間が経つと成分が変化・減少する『消長(しょうちょう)』という現象が起こったり、時間が経つと色や味が出てきたりする。1か月以上かけて試してダメ、ということもザラだった。

 そんな中、周囲から助け舟が出された。「レモンなどのフレーバーをつければ世に出せるのではないか?」というのだ。しかし久保はありがたく思いつつもそうはしなかった。ユーザー調査で話を掘り下げると「水は味がないから毎日続けやすい」「無味無臭だから飲みやすい」といった声があったのだ。久保はそんな具体的な「声」を握りしめていたからこそ、ブレることはできなかった。

サントリー

久保洋介(くぼ・ようすけ/中央)
ユーザー調査から「水」へのニーズ拡大や、生活者の本音を捉え、特水開発プロジェクトの陣頭指揮を執った。

リチャードソン萌(りちゃーどそん・もえ/右)
味にごまかしがきかない「水」に機能を持たせるという難題に挑みつづけ、50種類以上の素材を試し「HMPA」を発見。

橋本涼子(はしもと・りょうこ/左)
ラベルデザインを担当、市場にない「機能性を持った水」を認知してもらうため百を超えるデザイン案を検討した。

行き詰まるデザインを変えたユーザーの一言

 中身の開発と並行して進めたパッケージデザインも難易度が高かった。できあがったものを見れば「『特茶』のデザインを踏襲したのかな」と思うが、この時点で水のプロジェクトは『特茶』とは関係ない。デザインセンター・デザインディレクターの橋本涼子が直面したのは、パッケージを見た消費者の「右脳」と「左脳」を納得させることの難しさだった。

「この水には、『おいしそう』『うるおしてくれそう』と右脳で直感する部分と、『健康に良さそう』と左脳で論理的に理解する部分があるのです。しかしこれらが相いれませんでした。『内臓脂肪を減らすのを助ける』といった機能を銀色で強調すると薬のような雰囲気になります。逆に水らしさを強調すると、機能性があると伝わらず、左脳を納得させられません」

 コンビニやスーパーの棚で消費者が1つの商品に目を向ける時間は、わずか数秒といわれる。この一瞬で理解してもらえなければ、どれだけ良い商品でも埋もれてしまう。橋本は試行錯誤を繰り返した。スポーツシーンを想起させるデザインや、成分の化学式を前面に出したデザインを起こし、何百回と透明なフィルムに印刷し、ペットボトルに巻き、社内にあるコンビニやスーパーの売り場を模した棚に置いてみて、最後、これぞと思ったものを久保と一緒にユーザーに見せた。

 ミリ単位で細かく調整したデザインを否定されるのは辛い作業だったかもしれない。しかし橋本と久保はユーザーの話を謙虚に聞きつづけた。橋本が話す。

「怪しい魔法の水のように見える、というご意見もありました。でもしっかり耳を傾けると、大切なことに気づける声だったのです」

 体形を気にしている中高年層の人物が「機能性を持ったお茶を飲んでいるけど、毎日だと少し疲れるから水を飲みたくなる」と言ったのだ。その瞬間、ようやく彼らは一歩前進した。久保が話す。

「ならば当社の『特茶』ブランドの水バージョンが出た、という形にできないかと思ったのです。その方向で話を伺うと『それ、飲んでみたい!』と、今までになかった熱い反応を頂きました」

夢の水の謎物質「HMPA」とは?

HMPAは米ぬか由来で、内臓脂肪を減らすのを助ける。ポリフェノール摂取時に腸内細菌によっても生成されるが食品からの摂取も有効。

HMPA

※米ぬかのイメージ

元々、食品の開発に興味があって入社したので大変ですが楽しかったです

リチャードソンさん

シーンを選ばず日常に溶け込む「水」を市場は喜んで受け入れた。リチャードソンさんも「毎日飲んでいますよ」と笑顔。

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