地方の活性化と若い世代への施策
沖澤さんは昨年7月、出身地の青森で「青い海と森の音楽祭」を始めた。また9月には京響を引き連れ、オーケストラ公演も実施。大成功を収めた。
「京響の常任指揮者に就任して、すぐに構想していた京響の青森公演ですが、地元の企業さんらのお力添えもあり、思いのほか早く昨年に実現できました。青森県に関西からオーケストラがやってくるなんてことは滅多にないことで、演奏会当日は開演前のプレトークから会場の熱気が凄かった。地元の方々の熱心さをひしひしと感じました。オーケストラの面々も高揚して、アンコールでは“ねぶた囃子”を演奏。会場一体となって盛り上がりました。終演後、お客さんが書かれたたくさんのアンケートを拝見しましたが、あんなに長い感想見たことがないというほど、みなさん長文で書いてくださっていて、感激しました。京響を毎年連れて行くのは難しいですが、青森での『青い海と森の音楽祭』は毎年開催する予定です」
クラシック音楽業界も聴衆の高齢化が進んでいるといわれるが、若い世代のファンの獲得にはどのような施策があるのだろう。
「子供のころから楽器を弾いていたりすると早い段階から音楽を聴く習慣がつくかもしれませんが、そうでない方もある年齢に達して初めて音楽が好きになることがあると思うのです。
クラシック音楽の聴衆が高齢化しているといわれるのは、実社会での若い人たちが少ない人口比率がそのまま反映されているだけで、敢えて若い人たちだけを取り込もうとしなくていいはず。
次世代に向けてのファン獲得という意味では、学校公演などを充実させることで、そこに種まきができて、将来ひとりでもふたりでも演奏会に来てくれるようになればいいと考えています。
もうひとつ、京響での重要な取り組みで、30歳以下を対象にしたとても安いチケットを販売しています。これは当日だけでなく事前に購入することができます。一般的な若者向けのチケットは25歳以下の設定ですが、その年齢制限を上にあげているのです。
私もかつてそうでしたが、大学を卒業して30歳近くになっても定職に就かずフリーな人ってたくさんいて、そうした方々に音楽に接する機会を持っていただければと。
ベルリンでは同様の30歳以下を対象にしたチケットがあり、私もそれで随分お世話になりました。
デジタル世代の若者にも、生の音を聞くというアナログな体験をする機会を持ってほしいです。スピーカーから発生する音とは違う、生の音が演奏会場全体に響き渡るという体験は特別なものになるはずです」
音楽家の間でも楽譜をデジタル化してタブレットなどで閲覧する人が増えているが、沖澤さんはいまだに“紙と鉛筆と消しゴム”を使っているという。
「デジタルでは頭に入らないですね。手で書いた方が一発で頭に入ります。私が古い人間というだけでなく、紙の本を読んだ方が記憶に定着するという研究結果もあるようです。
確かに膨大な楽譜を全部持ち歩くことはできないから、デジタル化してタブレットで見ることはありますが、紙の楽譜だとページをめくるときの感じや紙の質感、匂いもあって、そうした要素すべてが脳に定着しやすいように思います」
次世代の若者には、他人と自分を比べないことも大切だと話す。
「思春期の女子学生がSNSやYouTubeなどでインフルエンサーを見て自分と比較し、人生に絶望するなんてことがありますが、音楽の世界でも同じです。とてつもない神童など凄い才能を見てしまって、自分はダメだとやめてしまったりするのはもったいない。
私が藝大の学生だったときは劣等生だったこともあり、先輩にこう諭されました。誰でもスタート地点は違うから、焦らない方がいいよと。
それから自分ができることをコツコツとやっていきました。人と比べないで、自信を持つことで自分の可能性は広がっていく。自分を変えられるのは自分自身です」

●京都市交響楽団
プロコフィエフの陣~交響曲全曲演奏会 「壱」
沖澤のどか指揮 @京都コンサートホール大ホール(2026年5月3日)
取材・文/インディ藤田
世界的ピアニストであり指揮者、実業家として活躍する反田恭平さんの 〝幸せに働く〟発想戦略
天才的なクラシック音楽演奏家というと、ストイックに音楽を追求する芸術家肌の人物を思い浮かべるもの。 しかし、今、最も世界的に注目されている日本人クラシック音楽家…







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