指揮する公演のチケットは完売することが多い、京都市交響楽団の常任指揮者・沖澤のどかさん。ふたりのお子さんを育てながら、ベルリンを生活の拠点に多忙な日々を送る。オーケストラという大人数の組織を束ねる女性のリーダーでもある沖澤さんに、コミュニケーション術や海外との文化の違いについて話を聞いた。
●指揮者・沖澤のどかさん
2018年東京国際音楽コンクール〈指揮〉優勝。2019年ブザンソン国際指揮者コンクール優勝。2020~22年6月までベルリン・フィル・カラヤン・アカデミー奨学生及びK.ペトレンコのアシスタント。2022/23シーズンのミュンヘン響アーティスト・イン・レジデンス。セイジ・オザワ松本フェスティバル首席客演指揮者。「青い海と森の音楽祭」芸術総監督。青森県生まれ。東京藝術大学とハンス・アイスラー音楽大学ベルリンで修士号を取得。2023年4月から京都市交響楽団第14代常任指揮者に就任。ベルリン在住。
女性の立場とリーダーに必要なもの
男女雇用機会均等法が施行されて40年、一般企業でも女性のトップが増え、活躍の場も増えているが、まだまだ男性中心的なシーンは多い。クラシック音楽の業界では変わりつつあるのだろうか。
「私が学生の頃は、コンクールなどは選ぶ側がすべて男性で、女性は採らないという人もいました。ポジションを得ようとしても、女性だからと機会を減らされることもあったと思います。
一方、現在では欧米で女性を推していく傾向があり、例えば、女性だからコンクールで優勝できたのではといわれることがあります。また、成績が優秀だった順ではなく、男性何人、女性何人と男女の枠で選ばれるようなことも。それはフェアではないですよね。
パワハラといった問題も、まだまだ根強く残っているようです。権力を持っている人が男性の場合、下で働く立場の女性が発言できなかったり、主張を押さえつけられたり。セクハラまがいのこともあって、最近、ネットで話題になった “音大おじさん”は女性の音大生に対する迷惑行為ですが、日本独特の深刻な問題かもしれません。
ちなみに私がいたベルリンの音楽大学では、女性のキャリア形成についてというセミナーが開催されていました。女性は妊娠、出産すると楽器が弾けない時期があるので、学生のうちからそういったことを考えていく機会があり、いい取り組みだと思いました」
京都市交響楽団(以下、京響)を率いる立場になって丸3年。リーダーとして、一般企業などの組織と共通するものがあるとすれば、何だろうか。
「信念を持っていることですね。私の場合は音楽ですが、お客さんにいい音楽体験をしていただくために、音楽づくりがぶれないこと。見栄のためとか、何かとりつくろったりすると、あっという間に崩れてしまいます。自分たちが何を見ているか、一緒にどこに向かっているかを忘れないこと。
例えば、ロシアでは年齢性別関係なく指揮者は絶対的な存在なので、部屋に入ると全員起立します。でも、少しでもあやふやな態度をとると瞬時になめられてしまう。
ドイツでは、かなり強く自分の意志を押し通さないと、弱い人、自分の意見を持ってない人とみなされてしまいます。ドイツの学校では成績が良くても発言がないと進級できないくらいですから。
ただ、その欧州のメンタリティで日本のオーケストラと対峙すると、生意気だと拒否反応が出てしまう。コミュニケーションの取り方は、国によって変える必要もありますね」
オーケストラという組織で活かしたマネジメント
オーケストラという組織を運営するには、マネジメントも必要だ。東京芸術大学の授業では演奏企画マネジメント論も学び、下積み時代には金沢のオーケストラで事務方の手伝いもしていた。様々な経験を通し、音楽の魅力を広く伝えるための活動にも力が入る。
「京都ではできるだけ外にも出ていくようにしています。先日は“産技研”(京都市産業技術研究所)を見学に行きましたし、京都市動物園では園長さんと対談したこともありました。
京都ならではの伝統工芸などともコラボできればと、私が指揮する際に身に着けるバレッタ(装飾が施されたヘアアクセサリー)を懐紙専門店に作っていただいたこともあります。
また、京響ではアウトリーチ事業を展開していて、70周年の今年は京都ならではの伝統文化や近現代文化を代表するような施設に出向き、京響メンバーによるアンサンブル演奏を披露する『京(みやこ)の音楽会』というシリーズがあります。
私自身にふたり小さな子供がいるというのもありますが、ゼロ歳から入れるみんなのコンサートにも力を入れています」
海外と異なる制度や環境
沖澤さんはまさに働き盛りの世代だが、仕事と子育ての両立はどのようにこなしているのだろう。
「いえいえ、全然両立できていませんね。手抜きだし、ジャグリングしながら綱渡りしている感じです(笑)。
今回の来日は滞在期間が長く、家族みんなで日本に来ていて、ベビーシッターさんにもお願いしますが、夫がワンオペで対応してくれています。
普段はベルリンに住んでいて、先日アメリカのボストン交響楽団の演奏会などで3週間出張しましたが、その間はすべて夫がワンオペで子育てしてくれていました。夫も仕事をしていますから、大変です。産休を取って仕事を休むと、産後大変なときに仕事が増えることもあり、子育てをどうするかについては、夫とかなり話し合いました。
以前、仕事で一人目の子どもと離れたとき、精神的にとてもつらくなってしまい、仕事の量をセーブしたことがあります。下の子はよく発熱するので小児科に駆け込むことも多く、家族の予定が狂うのは日常茶飯事。でも演奏会のリハーサルと本番だけは死守しています」
日本とドイツでは、子育てをめぐる制度が異なるという。
「日本では子供が小さいころから家で留守番をさせられることがあると思いますが、EUでは国によって年齢は異なるにせよ、12~14歳以下の子供にひとりで留守番させてはいけないと法律で決められています。
保育園もドイツの場合、お迎えは午後3時から4時くらい。子育て中は、親の一方または両方が時短で働くのが一般的です。産休から復帰する際も、急に100%に戻すのではなく、50%や75%などと働く割合を選びます。
出産前に夫婦ふたりで200%働いていた場合、出産後、ふたりで100%にするか150%にするかというのを職場とも相談して調整していきます」
日本とドイツでは、都市の環境面でも大きな違いがある。
「東京の特に23区は人のスピード感が凄くて、働く人を中心に社会が回っているようで、人が多すぎて騒音も大きく、ストレスを感じてしまいます。
東京ではパーソナルスペースが狭いですね。ベルリンはドイツの首都ですが、中心が大きな公園で、緑化の割合が定められていて、街づくりの発想からして同じ首都でも全く違う。
例えば、ベビーカーで東京へ行くと、駅やデパートのエレベーターは満員で乗れないことがほとんど。子連れで繁華街などに行くと気が引けてしまいます。
逆にドイツでは、大きな駅でもエレベーターが故障して動いていないことが多い。それで仕方なく階段へ向かうと、通りがかりの人がすっとベビーカーを持って運んでくれることが多い。赤の他人が当たり前のように助けてくれる空気がありますね。
それは日本では京都で感じられることが多いかもしれません。京都は何でも揃っていながら、少し歩けば山や川があり自然に触れられて、季節感を大切にしている街だと思います」







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