■連載/ヒット商品開発秘話
カレーの具材で主役といえば、何と言っても「肉」。食べた時の満足感を左右する重要な食材だが、レトルトカレーで肉の存在感を打ち出したものが現在売れている。
ハウス食品が2025年2月に発売した『カレーでニクる。』のことで、高価格(税別参考小売価格438 円)ながら、2026年3月時点で累計販売個数が100万個を突破した。
『カレーでニクる。』は、肉を堪能できるカレーを目指して開発。同社のレトルトカレー史上、最大量の肉が入っている。独自の製法により、噛めば噛むほど肉の美味しさが染み出すのが特徴だ。
ターゲットはMZ世代
発売の1年半ほど前に企画された『カレーでニクる。』の開発背景には、肉に特徴があるレトルトカレーが伸長していることがあった。コロナ禍でレトルトカレーの喫食機会が増加したこと、レトルトカレーの美味しさや技術が向上したことで肉にこだわった美味しいカレーを食べたいというニーズが高まってきていることから、2023年度の販売金額が2019年度比で126%と伸びている。
レトルトカレーに対して肉の大きさや美味しさに言及する声は、同社が毎年定期的に実施しているユーザーへのアンケート調査からもうかがえた。開発を担当した食品事業本部パーソナル食品事業部の岩金慶氏は次のように話す。
「お客様にレトルトカレーに望むことを聞くと、肉をもっと美味しくしてもらうことや大きくしてもらうことを希望する声が多いです。こうした声はとくに、MZ世代(ミレニアル[M]世代とZ世代にまたがる15~44歳)から多く聞かれました」
同社のレトルトカレーで肉に特徴があるものといえば、『とろうま角煮カレー』がある。長い歴史を持つことからリピーターが多いブランドだが、購入者の中心が50~60代とやや高め。レトルトカレーをあまり購入する機会がない若年層向けに、肉に特徴のあるレトルトカレーをつくることにした。岩金氏をはじめとする開発の中心メンバーは、メインターゲットと同世代の20代で固めた。
肉の量はハウスのレトルトカレー史上最大
開発スタート時に決まっていたことは、肉に特徴があるレトルトカレーであることと、製法確立のメドが立った新製法の「お肉パラダイス製法」を採用することのみ。そこで、まずはコンセプトを決めることから着手した。
検討を重ねた末に決まったコンセプトは「肉を食べるレトルトカレー」。中身だけにとどまらず、商品名やパッケージデザインでも肉を前面に出すこととした。
採用が決まっていた「お肉パラダイス製法」とは、肉の美味しさを引き出す旨味・香り成分を肉に付与し、噛めば噛むほど肉の美味しさが染み出るようにしたもの。噛んだ時に肉の美味しさが口に広がる、肉の理想的な状況を実現することから、製法名に「パラダイス」とつけた。レトルトカレーは製造過程で加圧加熱殺菌を施す関係上、肉の旨味や香りがカレーソースに溶け出てしまい肉がパサつくことから、肉を美味しく食べるために編み出された。
肉種は牛肉と豚肉の2つ。1パックにつき牛肉は50g、豚肉は55gとすることにした。それまで同社のレトルトカレーで最も肉の量が多かった『とろうま角煮カレー』の40gを超えた。
肉の量は検討課題になった。「パウチから出した時に、『肉がいっぱい』と思ってもらえる量は絶対入れたいと思っていました。1食で満足感が得られる最適な量であると同時に、ハウス食品のレトルトカレー史上最大の量を目指しました」と岩金氏。見た目のインパクトと価格とのバランスから肉の量は決められた。
肉だけではなくカレーソースづくりでも強くこだわり時間をかけた。それは牛肉と豚肉でカレーソースが異なっていることに表れている。岩金氏は次のように話す。
「レトルトカレーは、肉種は違ってもカレーソースは同じというパターンが珍しくありません。『カレーでニクる。』は肉をいかに美味しく食べてもらえるかにこだわったので、牛肉と豚肉のそれぞれで、肉の美味しさを味わえるカレーソースをつくることにしました」
味づくりのため、肉が評判のカレー店を開発メンバーが食べ歩いて味を確認。岩金氏を含めメンバーで分担し、各自が10店舗ほど回った。
肉が評判のカレー店を食べ歩いてわかったことが、カレーソースの主張が強すぎず、肉の味わいを引き立てていたこと。そこで、牛肉は上品な旨味を引き立てることができる欧風カレー、豚肉は甘い脂をさらに甘くしないよう爽やかな生姜の香りなどを利かせたスパイスカレーとすることにした。
つくった試作はそれぞれ35食以上。他のレトルトカレーと比べると多く試作をつくった。「本当はもっと時間がかかると思っていましたが、研究所のメンバーが優秀でしたので、まったく異なる2種類をつくった上に新製法を使って工場で問題なくつくれるようにするまでが思ったよりスムーズに進み、早く商品化することができました」と岩金氏は話す。
レトルトカレーらしくない商品名とパッケージデザイン
商品名は、44のネーミング案の中で肉を食べるカレーを一番キャッチーに表していることから採用された。他のメンバーなどの評判が良かったことから決めたが、岩金氏の中では最初に『カレーでニクる。』が案として示された時に若年層にウケると確信したことから、「これがイイ」と即決していた。
商品名でこだわったのが、造語である「ニクる。」の最後に句点をつけること。商品名に引っかかる要素を盛り込みたかったためであった。岩金氏は「シュールで『何これ?』と思ってもらうことを狙い、句点をつけることにしました」と明かす。
レトルトカレーらしくない商品名だが、同じことはパッケージデザインにもいえる。一番目立っているのが漢字の「肉」で、その横に牛や豚のイラストを配置。「肉」の下に商品名と「お肉パラダイス製法」の表記、シズル画像がくる。全体的にガチャガチャした印象だ。
デザイン案の中にはZ世代向けにネオンカラーを使ったものや、ネオ居酒屋風のものなどもあったが、肉に特徴があることが伝わりそれ以外のことに意識が向かないこと、いままで見たことがないことから選ばれた。岩金氏は次のように話す。
「当社のパッケージは温かいカレーの美味しさを伝えることに注力するので、社内では『ハウスらしくない』とよく言われました。賛否は分かれましたが、若年層向けの商品ですのでハウスらしくないものを打ち出せるものを選ぶことにしました」
テレビ放送がきっかけで前月比3倍の売上を達成
レトルトカレーにしては高価格で手に取ってもらうハードルが高かったことから、発売から2か月後あたりまでマネキンによる試食販売に注力した。「最初のトライのハードルを下げることに取り組みました」と岩金氏。試食販売の効果は高く、実施した店舗では売上の上がったところが多々あった。
このほかに実施した販促は、ECサイトごとに実施されるセール時に露出を強化した程度だった。
発売と同時にテレビCMを打つなどマスメディアを使い大々的な販促策を展開するイメージが強い同社において、『カレーでニクる。』の販促は控え目な感じがある。高価格なこともあり、時間をかけて商品の良さを知ってもらい、ジワジワ認知を拡大させるアプローチを採用した。
また直近では、2026年2月の売れ行きが前月比の3倍になる出来事が起きた。その理由は、全国放送のテレビ番組で一番美味いレトルトカレーに牛肉が選ばれたこと。「放送をきっかけにして商品のことを知り、手に取っていただける方が増えました。取扱店舗に関する当社への問い合わせもかなり増えている状況です」と岩金氏は明かす。
購入者の構成を見ると、『カレーでニクる。』は他のレトルトカレーと比べて30~40代が多い。ターゲットとしたMZ世代のうち、M世代の支持が高いことになる。高価格帯であること、主要な販売チャネルであるスーパーをZ世代よりもよく利用することなどが主な要因だと考えられている。
だからといって、Z世代に刺さっていないわけではない。ネット上では「こんな美味しいレトルトカレーがあったんだ」といった20代の購入者の声が確認できている。岩金氏自身も知り合いから、「中学生が食べて『これ美味しい。他のレトルトカレーとは違う。これはすごい』と言ってくれた」とべた褒めする賛辞の言葉を聞いたという。
取材からわかった『カレーでニクる。』のヒット要因3
1.明確なコンセプトを体現
コンセプトは「肉を食べるレトルトカレー」。このコンセプトに沿って中身をつくり、商品名とパッケージデザインを決めた。すべてが1つのコンセプトに基づいて決められたので統一感があり、生活者にチグハグな印象を与えなかった。
2.肉の量、大きさ、味のこだわりを追求
同社のレトルトカレー史上最大の肉量とし、大き目にカットした肉を使用。レトルト殺菌により旨味がカレーソースに溶け出てしまい旨味が乏しくなる課題を、新製法で克服した。「ニクる。」の名にふさわしく、見た目、食べ応え、味において高い満足度が得られるものになった。
3.ターゲットを熟知していた
ターゲットとしたユーザーを若いMZ世代に設定。開発に当たったメンバーもこの世代であった。従来のレトルトカレーと比べると商品名やパッケージデザインが異質だが、ターゲットの嗜好などを熟知していたことから実現できた。
今後の展開は模索中だが、辛さに関しては現在の中辛一本で継続していきたい考え。辛口を要望する声は多いが、その理由を岩金氏に問うと「辛さを際立たせると肉を堪能しきれないからです」と答えてくれた。主役はあくまでも「肉」なのだ。
取材・文/大沢裕司
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