かつて電通は”マッチョな働き方”をする企業だった。長時間労働、深夜残業、休日返上…働けば働いた分だけ評価をされ、それが美徳とされる社風があった。この時代遅れの企業風土を変えるべく、2016年11月、電通は社長を本部長とする「労働環境改革本部」を立ち上げ本気で働き方改革を実施。それから今年で10年。今、電通の労働環境はどうなっているのだろうか。
総労働時間、時間外労働、有給取得率…いずれも10年で大幅に改善
「働きがいのある企業ランキング2026」2位、「10年間で残業が大きく減った100社ランキング」1位、「子育てしやすく年収も高い企業」1位。これらは、ここ数年、電通が獲得したランキングの数々である。中でも、「働きがいのある企業ランキング」に関しては、約2万社を対象に社員や元社員の声を元にして集計されており、電通は2024年に3位、2025年には1位と、2026年の2位と合わせて、3年連続でTOP3入りを果たしている。同様にいずれのランキングも公開されたデータを元に客観的に評価・作成されたものである。
「The・体育会系」のイメージとは裏腹に、近年、電通はホワイトな労働環境にフォーカスされることが増えてきていることが顕著に表れている。今回、電通の人事部門で働く環境の整備・社内制度を担当する電通コーポレートワンの人事オフィス長・塩見研吾氏に話を聞いた。

「今から10年前の電通は『長時間働くことが当たり前』『徹夜をして仕事をこなす私、かっこいい』というカルチャーがあったかもしれません。私が電通に新卒で就社をしたのはかれこれ20年以上前になりますが、電通をはじめとする広告業界やメディア業界はこういう働き方をするものだということに特段の違和感を覚えなかったのも事実です。しかし、2015年12月、電通は新入社員の一人が亡くなり、会社としてこれまでのやり方ではいけないと改めて気づきました。これをきっかけに電通は労働環境の抜本的な改革を始めることになりました」
2016年における電通社員1人当たりの総労働時間は2166時間、1人当たりの法定外労働時間(月間平均)は26.9時間、有給休暇取得率は56.0%であったというデータがある。この労働状況を是正すべく、電通は2016年11月に社長執行役員を本部長とする「電通労働環境改革本部」を設置。同時に発表した「22時以降の業務原則禁止・全館消灯」は当時、大きなニュースにもなった。
「まず業務を”しない”ではなく、業務を”できなくする”ことで社員全体の意識改革を図ったんです。これには『そんなことやったら仕事のクオリティー下がります』とか『お得意さんから怒られます』という反発も声も多かった。しかし、だからこそ、当時の私たちにとってはここまで振り切る必要があったのだと感じます。経営陣も不退転の覚悟で断固として実行に移しました」
電通は、電通労働環境改革本部の設置以降、2017年、2018年の2年間で約250の施策を実施している。労働時間の削減のために人員増強やRPAやロボットの導入、在宅勤務の推奨、休暇制度の拡充、勤務時間によらない新たな評価制度の導入、減少する時間外労働手当に対する補償など多岐にわたる。
その結果、2018年の社員1人当たりの総労働時間は1,952時間、1人当たり法定外労働時間(月間平均)は9.8時間、有給休暇取得率は66.0%へと改善している。


この水準は現在も継続中で、2025年の1人当たり総労働時間 2,039.0時間、1人当たり法定外労働時間(月間平均)は9.9時間、有給休暇取得率は70%となっている。また、電通は多くの企業が課題を抱えている男性育休取得率に関しても昨年度は103.1%、平均取得日数は67.1日と、政府が2025年までの目標として、民間の男性育児休業取得率50%を掲げている中で驚異的な実績を残している。
「当初は、社内から反発のあった労働改革もいまや当然の制度として定着が進んでいます。絶対にあの時代に戻ってはならないと今では社員全員が強い覚悟を持っていると感じています。健康に配慮し、法令を守り、健全で正しいプロセスを通じて成果を上げることを大切にしています。当時の労働時間絶対主義の考えから、今は労働時間内でいかに仕事を達成するのかに考えがシフトしています。
2018年には当初目標としてた1人当たりの総労働時間を80%にするという目標は達成できましたが、それで労働環境改革が終わるわけではありません。働き方は今後もずっと時代に合わせて変わり続ける、というか自発的に変えていかなければなりません。経営陣を中心に人事部門と社員全員で今後も働き方の改善を進めていきます」
電通が2017年以降に行った労働改革の一例
22時以降の仕事を“禁止”する「全館消灯」

電通では22時に全館消灯し、それ以降の残業は原則禁止にしている。仕事を持ち帰ることなく、夜はきちんと休息が取れるように労務管理を徹底している。
社員との対話促進

「改革」を進める全ての段階において、経営層と社員との対話を促進し、一方的な「改革」にならないように、社員の声にも耳を傾けている。
自律的取り組みを推進する休暇制度

個人がよりよいインプットを得るために、月に1日、 「全社員が同じ日に年休取得を奨励する日として“インプット等有給奨励日”を設定している。
加えて、年に数回「全社員が同じ日に有意義に休むこと」を奨励し、リフレッシュホリデー(特別休暇)を実施している。
初速を上げる現場ノウハウやツールの全社展開

現場社員へのヒアリングを通じて、優先度の高いニーズを精査。約300のツール、テンプレート、手引きを整備し、ポータルサイトに一元化。さらにOA倍速講座の実施などにより、業務を効率よくするための取り組みを全社で展開。
スマートワークコンシェルジュ(SWC)の推進

スマートワークコンシェルジュ(SWC)として、人事・総務・ITなどのコーポレート系業務に関する問い合わせや業務支援を集約する仕組み。AIチャットボットと有人対応を組み合わせ、社員が迅速かつ均質なサポートを受けられることで、業務効率化と働き方改革を推進しています。

塩見研吾さん
電通コーポレートワン 人事オフィス長
(株)電通 人事部門責任者。2005年に電通入社。メディア、営業を経て経営企画部門に異動。役員サポートや純粋持株会社である㈱電通グループ、コーポレート機能を集約する㈱電通コーポレートワン設立に従事した後、(株)電通コーポレートワンに移籍。2026年1月より人事オフィス長に就任。
取材・文/峯亮佑
撮影/干川修







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