会議やプレゼン前に「今回は準備不足で…」と前置きしてしまう。そんな行動の背景には、失敗から自分を守ろうとする「セルフハンディキャッピング」という心理が隠れています。やる気や能力の問題ではなく、評価や失敗への不安が生むこの行動を、職場での影響とともに解説します。
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会議やプレゼンの際、こんな言葉を聞いたことはないでしょうか。「今回は準備期間が短くて…」「ちょっと立て込んでいて…」。なぜか大事な場面になるほど、準備不足を口にする人がいます。
上司から見ると、「本気を出していないのでは?」と判断に迷う行動です。このコラムでは、こうした言い訳先行の行動がなぜ起きるのかを心理の視点から整理し、職場でどんな影響が出やすいのかを見ていきます。
やる気の問題で片づけずに、現場で使える「関わり方のヒント」をまとめました。
なぜ、実力があるのに「準備不足の言い訳」をしてしまうのか?
怠けているようには見えないのに、大事な場面で「今回は準備不足で…」と言う部下。いったい何が起きているのでしょうか?
この行動は、能力や意欲が足りないから起きているわけではありません。むしろ、結果がはっきり出る場面ほど表に出やすくなります。
会議やプレゼンのように、「うまくいったかどうか」が誰の目にもわかるタイミング。注目が集まり、失敗がそのまま能力評価に直結しそうな場面では、ダメージを少しでも軽くしたいという心理が働きます。
そこで無意識のうちに、「今回はあまり得意なテーマではなくて」といった理由を先に添える行動が出てくるのです。
心理学では、これを「セルフハンディキャッピング」と呼びます。自分の能力ではなく、準備不足や環境・条件のせいにすることで、結果がふるわなかったときに、自分が傷つかずに済むようにするための反応です。
本人が「言い訳してやろう」と思っているとは限らず、多くは無自覚です。傷つきたくない気持ちと、挑戦しなければいけない状況のあいだで、なんとか折り合いをつけようとしている。そんなごく自然な反応のひとつです。
だからこそ、「言い訳している」とすぐに決めつけてしまうと、見えてこない事情があります。
とはいえ、職場で「準備不足」や「言い訳」が歓迎されにくいのも事実です。次は、その言動が周囲にどう伝わり、どんな影響をもたらしやすいのかを見ていきます。
「言い訳」が職場に与える3つの影響
本人にとっては、無意識の保険のつもりでも、職場では別の意味で受け取られてしまうことも。評価や信頼、チームの動きには、どんな影響が出やすくなるのでしょうか。
(1)本気を出した結果が見えず、評価が保留される
「今回は思うように調整できなくて」。そんな前置きが続くと、周囲には「本当の力」が見えにくくなります。万全な状態で取り組んだときに、どこまでできるのかがわからない。実力はありそうでも、確証が持てない。
上司としても評価を決めきれず、次のチャレンジを任せる判断が後回しになります。
(2) 「言い訳が多い人」という印象になり、信頼が下がる
毎回のように準備不足や状況の話から入ると、内容に入る前から「またか」という印象が残ります。本人にそのつもりがなくても、「責任を取りたくないのでは?」と見られてしまうこともある。
一度そう思われると、重要な場面で声がかかりにくくなることも。
(3)周囲が気を遣い、チームの動きが重くなる
「今回はどこまで期待していいのか」「この人は本気なのか」。言い訳めいた前置きが続くと、周囲は無意識に、こうした空気を探るようになります。
すると、言葉を選んだり、手応えを探ったり、様子をうかがいながら関わる場面が増えていきます。本来は仕事に集中すべきところで、人間関係の調整にエネルギーが割かれ、チームの動きが鈍くなっていきます。
「やる気の問題」にせず、建設的に関わる5つの工夫
「言い訳するな」と伝えても、行動が前向きに変わるとは限りません。必要なのは、責めることではなく、本人が力を出しやすくなる関わり方です。
(1)すぐに「怠けている」と決めつけない
準備不足や遅れが見えると、「やる気がないのでは?」と感じてしまうこともあります。ただ、その時点で姿勢の問題にしてしまうと、本人が話しづらくなってしまいます。評価に入る前に状況を確認する姿勢が、建設的な関わり方の土台になります。
(2)結果だけでなく、「どう取り組んだか」も見る
成果だけを見られると、「失敗できない」というプレッシャーが強くなります。けれど、上司が取り組みの過程にも目を向けていると感じられると、安心して力を出しやすくなります。
どこまで考えていたか、何を試そうとしていたか。そうした部分を見てもらえているだけで、次の一歩が踏み出しやすくなります。
(3)言い訳は否定せず、「事実として扱う」
「忙しくて」「準備が足りなくて」などの言葉を、すぐに否定する必要はありません。ただし、そのまま流してしまうと、「言えば済む」と思われてしまうことも。大事なのは、起きたこととして受け止めること。
「そうだったんですね」と聞いたうえで、「では何が足りなかったか」「次はどうするか」に話を切り替えていきます。
(4)本人が「失敗したら終わり」と思っていないかを見る
言い訳が出る人ほど、「一度のミスで評価が決まる」と思い込んでいることがあります。そう感じていると、挑戦よりも「失敗しないこと」を優先しがちです。
「今回はやり方を探るつもりでやってみよう」など、上司のひと言でその構えがやわらぐこともあります。
(5)最初から完璧を求めず、「試せる空気」をつくる
いきなり完成形を求められると、人は慎重になりすぎて動きづらくなります。「まずやってみて、あとで調整しよう」という空気があると、動き出しやすくなります。
「小さく試す → 振り返る → 次に活かす」。この流れがあるだけでも、本人の力が自然と出やすくなります。
言い訳のように見えて、その奥にあるもの
言い訳が先に出る部下を見ると、「結局やる気がないのでは?」と感じてしまうこと、ありますよね。けれど、その一言の裏にあるのは、「傷つきたくない」「評価を落としたくない」といった思いかもしれません。
セルフハンディキャッピングはそんな不安から出た、よくある反応です。やる気や姿勢の問題とする前に、その人が何に不安を感じていたのかに目を向けてみる。それだけでも、違う捉え方ができるようになります。
構成/高見 綾
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