オリンピック正式種目でありながら、日本ではあまり馴染みないスポーツにクレー射撃がある。
これは、宙を飛ぶ皿を散弾銃で撃つシンプルな競技。世界の競技人口は約500万人もいるという。ハリウッド映画で、登場人物がクレー射撃をするシーンをたまに見かけるという意味では、ご存知の方も多いはず。
ただ日本では、銃の所持要件が厳しいなど、実際に始めるにはハードルが高い点は否めない。
そんななか、滋賀県大津市で7月に新規オープンしたのが、「クレーシューティングシミュレーター」。「本物の銃に触れて撃てる」という、関西では初、国内でも希少な施設ということで訪れた。
競技のルールはシンプル
応対に出たのは、濵﨑銃砲火薬店の次期代表、濵﨑航平(はまさきこうへい)さん。同店は、滋賀県でも数少ない銃器を取り扱うショップで、ガラス張りの棚には実銃が所狭しと陳列されている。

本題に入る前に、濵﨑さんはクレー射撃の基礎知識を教えてくれた。
「クレー射撃というのは競技の総称で、細かい種目がいくつかあります。代表的なのがトラップとスキートです。日本のテレビ番組でよく放送されているのがトラップです。これは、手前から奥に飛ぶお皿を撃つものです。対してスキートは、お皿が横に飛びます。このお皿をクレーと呼びます。
トラップに関しては、1枚のクレーにつき2発まで撃てます。クレーは陶器でできていて、使い捨てです。色は白やオレンジが一般的です。これに弾が命中すると粉々になります。放出機から1枚ずつ、全部で25枚のクレーが飛び出ますが、何枚命中したかで得点が競われます」

オープンのきっかけは銃人口の減少
現在、日本国内でクレー射撃をする人は約10万人とされている。銃を所有している人の数自体は20万人ほどで、60歳以上がおよそ6割を占めている。所有人口のピークは半世紀も昔だそうで、年々その数を減らしている。害獣被害が増えているのも、ハンターの自然減が一因としてあるそうだ。
濵﨑さんは、この現状に危機感を抱き「クレーシューティングシミュレーター」を導入したという。
「特に若い人は、銃に興味はあっても敷居が高そうだし、どこから始めていいかわからないと感じています。そこでもっと気軽に銃や射撃に親しめるようにと、機材を買いそろえオープンしたわけです」
店内を見渡すと、カジュアルなTシャツ、チキンビリヤニキット、チリソース、ドッグフードなども販売されている。

この品揃えも明確な意図があるという。濵﨑さんは話を続ける。
「銃砲店は、銃の所有者でなければ入りづらいものです。それで、誰でも入ってみたくなるお店にしようと、ジビエの臭み消しに使える調味料などを取り扱っています。今後の目標としては、雑貨店のように気軽に目的なくふらっと立ち寄って、ついでに銃にも触れられるというのが理想ですね」
なるほど。銃にはあまり関心のなかった筆者も、話を聞いてそそられた。
使用するのは本物の銃
さて、「クレーシューティングシミュレーター」は、店の上の階にあるという。上がってみると、広々とした空間に、2台のプロジェクターが置かれ、大きなスクリーンにクレー射撃場のCGが映し出されている。

プロジェクターのそばに銃が置かれているが、これは本物の散弾銃だという。

「本物といいましても、発射装置にかかわる機構をすべて取り払っているので、銃としての機能を失っています。模擬銃と呼びますが、これならどなたでも使うことができます」
シミュレーターの使い方も、濵﨑さんは教えてくれた。
「まず、開始前の設定から行います。キャリブレーションといって、センサーの感度などを使用者のクセに合わせます。スクリーン上に設定のボタンが現れるので、それに銃口を向けて引き金を引くと、ボタンを押すことになります。
設定が終わったら、射撃できます。リアルの競技と同じく掛け声を発すると、マイクがその声を拾ってクレーが射出されます。それを狙って引き金を引くだけです」
濵﨑さんが射撃を実演した。画面上で、地面より下に設置されている放出機から、クレーが発射される。それを銃口が追い、引き金が引かれるや、お皿は弾けてピンク色の霧と化した。

簡単には命中しない奥の深い世界
とても面白そう……実演を見ていると、狩猟本能とでもいえばいいのだろうか。文明化とともに忘れ去った原始のスイッチがオンになった気がする。
「どうぞ、どうぞ」――濵﨑さんのすすめにしたがい、銃を手に取った。
最初の印象は「なんて重いんだ」だった。銃の重さは約4kg弱。両手で持っても、ずしりとした感触が伝わってくる。
1競技25枚のクレーを撃ち終わる前に、腕が疲れてしまいそうだ……。ここで正しい構え方を教わる。肩の内側寄りに銃床の端部を密着させ、銃床に頬を当てる。これで重さが分散され、ブレずに安定して撃てるそうだ。
さっそく掛け声を発し、飛び出たクレーを追い、引き金を引いた。なんと初弾で命中。次のクレーも難なく命中した。
これは自分に射撃の才があるのかと喜んでいたら、クレーの速度や命中判定などの設定を、かなり甘めにしているからだという。
そこで、実際のクレー射撃に近い設定に再調整してもらい挑戦したところ、まったく当たらない……。クレーを目で追い、銃口をそちらに向ける頃には、かなり遠くに行ってしまい、その小さい標的に命中させるのは至難の業になっている。
「なので、ベテランの方ですと、飛び出してから0.6秒ぐらいで撃ちますね」と濵﨑さん。リアル設定だと初心者は、25枚のうち当たるのは頑張っても数枚くらいだそうだ。ただ、素質がある人だと、いきなり20枚当てることもあるとか。
ちなみに、実銃を所持するための試験では、25枚中2枚当てれば合格。これがオリンピックだと、逆に外すのが2枚程度になる。単純なようで難しく、かつ奥の深い競技なのだ。
現在、施設を利用する人は、銃の所有を目指し試験対策として来る人が一定数を占めるが、純粋にエンタメ気分で遊びに来るのも大歓迎とのこと。入場料はドリンク付きで500円、1プレイ(クレー25枚)で1000円と、利用料金も手頃。クレー射撃にちょっとでも興味があるなら、足を運んでみるといいだろう。
・濵﨑銃砲火薬店公式サイト:https://hamasaki-guns.com
取材・文/鈴木拓也
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