「ルビー」という名の活字を語源とし、フリガナを意味する「ルビ」。主に難読漢字に振られるルビだが、さらに多くの漢字に振る啓発活動を行っているのが、マネックスグループ会長である松本大(おおき)さんだ。
松本さんは、2023年にルビ財団を発足。さまざまな取り組みを通じて、ルビの普及に尽力している。
なぜ、今の時代にルビなのだろうか? ご本人に詳細を伺った。
■合いは幼少時の読書体験
――松本さんが、ルビに関心を持ったきっかけはなんでしょうか?
親が出版社に勤務していて、実家は床から天井まで本が積み上がっていました。それで、幼い自分が手の届くところにも本がありました。まだ、漢字はたいしてわからないので、その中からルビが振ってあるものを読んでいったのですね。
それが、ルビとの出合いでした。
成長して、漫画『天才バカボン』を読んでいたら、バカボンのパパが、映画館の前で『風と共に去りぬ』の看板を見て、漢字が読めないから「とにりぬ」と読んだというのが、印象に残っています。それもルビの原体験の1つです。
大人になっても、折々ルビのことを考えました。インターネットで株が売買できるマネックス証券を創業した頃、全ての漢字にルビを振った「総ルビ」の本のネット図書館ができたら面白いなと空想したり。
大人でも、漢字が多いばかりに、書籍や字幕映画に接する気がなくなることは多々あります。そういうのを見てきて、ルビが現状を変えるのではという気持ちは、確信に変わりました。それで、2023年に財団を立ち上げたのです。
ルビが減ったのは戦後から
――そういえば昔は、総ルビの本が多かった印象があります。
江戸時代までさかのぼると、庶民向けの出版物は総ルビであったし、戦前までその伝統はおおむね受け継がれていました。
戦後になって状況が変わりました。進駐してきたGHQは、難しい漢字のせいで日本人は識字率が低く、それが愚かな戦争に走った一因だとみなしていました。漢字廃止まで考えていたようですが、ルビがあったおかげで識字率は意外なほど高いことが判明。漢字は残すことになりました。
代わりに、子どもに習わせる漢字の数を制限し、それにはルビは付けないよう指導しました。くわえて、ルビが嫌いだった作家の山本有三が、当時大きな発言力を持っていて、その影響もありました。それに戦後の大変な時期、出版社や新聞社には、小さい活字を拾ってルビをつける余力がなく、そうしてルビはどんどん減っていき、今に至るのです。
日本に住む外国人にも影響
――書籍や字幕映画を敬遠する以外に、ルビがないことの弊害として何があるでしょうか?
日本に長く住む外国人が増えてきて、子供は日本で教育を受けて漢字は結構読めるけれど、親が読めなくて難儀することが少なくありません。例えば学校からの通知が、親が理解できないということは普通に起きています。それはルビで、一発で解決するはずです。
東京では、電気工事士や介護士を目指す外国人労働者が多いです。それに対応して、電気工事士や介護士の試験の漢字には、ルビが振られるようになりました。そのおかげで合格する外国人が増えているのですね。
英語との比較で言うと、英語はアルファベットだけなので、難しい論文でも読めることは読めます。でも、日本語だと、難しい漢字が多いというだけで読めません。それで、子どもたちの能力が伸び悩むことは、あるはずです。それは、もったいないと思います。
多様な活動でルビの存在意義を啓発
――財団の活動として、どのような取り組みをなさっていますか?
今はまず、啓発に力を入れる段階です。財団の公式サイトで情報発信し、新聞に広告を出し、出版社へ出向いたりしています。
その一環として、ルビが振ふられた本のフェアを、丸善やジュンク堂書店の90店舗で実施していただきました。これは、11月下旬ごろよりルビフル本コーナーとなって丸善丸の内本店にて常設で販売される予定です。
それから、今年から6月2日を「ルビの日」に制定し、「ルビフル本大賞」をもうけました。昨年出版された本から9作品を選定し、その中から審査員の投票によりグランプリを2点と審査員特別賞を選出しました。

グランプリは、『サッカードリブル解剖図鑑』と『Newton 別冊 精神科医が語る発達障害のすべて』です。『Newton』は、私が十代の頃に創刊された老舗の科学雑誌です。その別冊は、表紙も含めて全部ルビが振られています。
また、7月には多文化共生をテーマに「ルビフルシンポジウム2025」を開催しました。

ウェブサイトに一瞬でルビが付くボタンを開発
――ルビ財団の公式サイトには、「ルビON」「ルビOFF」のボタンがあって、一瞬でルビあり、ルビなしに切り替わるのはすごいですね。これは啓発活動に、大きな役目を果たすと思いました。
これは、ルビフルボタンと呼びます。グラファーという会社の社長で、当財団のアドバイザーでもある石井大地さんに作っていただいたものです。
ルビフルボタンは、どんなウェブサイトでもHTMLに1行入れるだけででき、無償で提供しています。
今年から、ルビ化の流れに勢いがつくと思っています。多くの人に、ルビの素晴らしさを知っていただければと思います。
お話を伺った方:松本大さん

ルビ財団ファウンダー、評議員。マネックスグループ株式会社会長、米国マスターカード社外取締役などを兼務。大手出版社勤務の親のもと、幼い頃よりルビのある本に親しむ。東京大学法学部卒業後、外資系証券会社での勤務を経て1999年、ソニーとの共同出資でマネックス証券を創業。起業家としての多忙な日々の間に、ルビのある社会を構想し、2023年に私財を投じてルビ財団を設立。ルビの普及を促進することで、 日本語を使う人たちの国語力や思考力の向上に寄与すべく活動している。
取材・文/鈴木拓也
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