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「Toyota Woven City」を取材して感じた〝エモさ〟の正体

2025.09.30

2025年9月25日、静岡県裾野市。未来都市「Toyota Woven City」が、ついにそのベールを脱いだ。しかし、実際に現地を取材した率直な感想は、最新鋭のテクノロジーが実装された街並み、革新的なサービスを実証する「Inventor」たち、きらびやかな技術や建築物でもなく、「なんかエモいな」だった。

その中心にあったのは、豊田大輔氏と豊田章男氏、親子の間で静かに、しかし確かに紡がれてきた、あまりにも人間的な物語だった。

息子の告白が明かした、壮大な夢の始まり

今回のイベントにおいて、メディア向けの説明会でもローンチイベントでもメインスピーカーとして壇上に立ったのはウーブン・バイ・トヨタのシニアバイスプレジデント豊田大輔氏だった。わざわざ説明するまでもないが、トヨタ自動車代表取締役会長豊田章男氏の長男だ。

彼の口から語られたのは、プロジェクトの華々しい成功譚ではなかった。「実を言うと、決して順風満帆ではありませんでした」。彼の正直な言葉は、このプロジェクトが単なる企業戦略ではなく、生身の人間の想いから始まったことを物語っていた。

きっかけは、東日本大震災後の2011年、東北に生産を移管した東富士工場の従業員集会でのことだったという。当時のトヨタ自動車社長であった章男氏が、会社の承認もない段階で「未来をつくる実験都市をやろう」と、個人の想いとして語った一言。それがすべての始まりだったという。

大輔氏はこの道のりを振り返り、「数え切れないほどの壁がありました。私自身も『本当にできるのだろうか?』と不安に思ったことも何度もあります」と吐露した。巨大企業のトップである父が描いた、あまりにも壮大で、ともすれば無謀にも聞こえる夢。その実現を託された息子のプレッシャーは計り知れない。しかし、彼を支えたのは「For others ― 自分以外の誰かのために」、そして「Weaving the Future ― 未来を紡ぐ」という、父から受け継いだであろう純粋な想いだった。

彼のスピーチは、壮大なビジョンを実現する裏側にある葛藤と、それでも前を向かせた仲間の存在への感謝に満ちていた。それは、偉大な父の夢を背負い、正解のない道を歩んできた37歳の息子による、人間味あふれる等身大の「告白」のように聞こえた。

父が語る「世話焼き町内会長」と「笑顔の2」の哲学

ローンチイベントに駆け付け、マイクを握ったトヨタ自動車会長、豊田章男氏の言葉は、その息子の想いに応えるかのようだった。彼は自らの役割を「マスターウィーバー」、そして「世話を焼くのが大好きな自称町内会長」と表現した。世界のトヨタを率いるリーダーではなく、この街の未来を案じる一人の生活者、一人の「おじさん」としての立ち位置を宣言したのだ。

彼がWoven Cityで起こしたいのは「掛け算」だという。それも、複雑な経営理論ではない。「皆さん『2』って言ってみてください!笑顔になるんです。みんなで笑顔の2をかけていきましょう」。企業や人が持つそれぞれの強みを掛け合わせることで、新しい価値を生み出す「カケザン」。その本質は、難しい数式や経営理論ではなく、人と人が出会い、笑顔になるという、極めてシンプルで温かいコミュニケーションにあった。

ダイキン、日清食品、UCC、Z会など、彼は参画する企業の名を挙げながら、それぞれが生み出す「笑顔の2」を足し算ではなく掛け算していくことで、未来が爆発的に豊かになる可能性を示した。そして、この土地の歴史も忘れない。かつてこの場所にあった東富士工場の従業員7000人と、生産された752万台のクルマ。その数字もまた、未来への掛け算に加えるべき大切な要素だと語った。過去へのリスペクトなくして、未来は紡げない。その哲学は、まさに「Woven(織り込まれた)」という街の名前に通じているが、それ以上にあふれていたのは一人の人間としての想いだった。

ハンバーガーで健康に!Woven Cityで日清食品が紡ぐ「おいしい未病対策」という未来

2025年9月25日、トヨタ自動車が静岡県裾野市に建設を進めてきた未来都市「Toyota Woven City(ウーブン・シティ)」が、ついにオフィシャルローン…

世代を超えて紡がれる想いこそが、この街の原動力

二人のスピーチから見えてきたのは、単なる事業の継承ではない。それは、父が描いた夢のタペストリーに、息子が新たな糸を織り込み、さらに大きく美しい模様を紡いでいこうとする、世代を超えた物語だ。

父が放った「未来の実験都市」という夢の種。それを受け取った息子は、不安に苛まれながらも仲間と共にその種を育て、ついに芽吹かせた。そして父は、その成長を「町内会長」として温かく見守りながら、そこに「笑顔」という名の肥料を惜しみなく注いでいく。

大輔氏が語った「世代を超えて、人と人、想いと想いがつながりながら進化し続ける街」。章男氏が実践しようとする「掛け算」。この二つの言葉は、同じ未来を見つめている。テクノロジーは、あくまでその想いを実現するためのツールに過ぎない。

取材を終えて感じたまず感じた「エモさ」。その正体は、このWoven Cityが、単なるビジネスや技術開発の場ではなく、豊田親子の「想い」、そしてこのプロジェクトに関わるすべての人々の「想い」が幾重にも織り込まれてできた、人間的な物語そのものであるという発見だった。

中でも大輔氏がスピーチの最後に叫んだ「健康第一!」という言葉が、そのすべてを象徴していると思う。まさか世界のトヨタによる未来都市のローンチイベントで「健康第一」という言葉が出るとは思わなかった。どんなに未来的な街であろうと、その中心にあるのは、人の笑顔と健康を願う普遍的な愛情なのだろう。まだクルマは空を飛ばないし、タイムトラベルができるわけでもないが、人間味あふれるこの未来都市がインベンターとウィーバー(住人)との実証実験を通してどんな新しい未来を紡ぐのか、この地に足の着いた人間味あふれる実証実験都市の未来が個人的には非常に楽しみだ。

取材・文/石﨑寛明(DIME編集部)

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