
2025年9月25日、トヨタ自動車が静岡県裾野市に建設を進めてきた未来都市「Toyota Woven City(ウーブン・シティ)」が、ついにオフィシャルローンチを迎えた。ここは単なるスマートシティではない。人々が実際に暮らし、働きながら、未来のモビリティやテクノロジーを検証していく「人が生活するテストコース」であるという。
この壮大な実証実験の舞台には、「Inventor(発明家)」と呼ばれる多様な企業や個人が参画している。トヨタが掲げるテーマは「カケザン」。それぞれの持つ技術やアイデアを掛け合わせることで、これまでにない価値を創造しようという試みだ。その中で、私たちの生活に最も身近な「食」の領域で未来を切り拓くという重要な役割を担うのが、日清食品株式会社である。
カギを握る「最適化栄養食」とは?
ラーメンやカップヌードルで世界の食文化を革新してきた日清食品が、このWoven Cityで挑むテーマは「健康寿命の延伸」。ハンバーガーやラーメンを食べながら、人々がより健康に、生き生きと暮らせる社会を目指すという、壮大かつ画期的な挑戦が始まろうとしている。
日清食品の挑戦の中核をなすのが、同社が長年研究開発を重ねてきた「最適化栄養食」だ。これは、私たちが普段親しんでいるラーメンやピザ、カレーといったメニューの見た目やおいしさはそのままに、カロリーや塩分、糖質、脂質などを精密にコントロールし、現代人に必要な栄養素をバランス良く調整した新しい食事の形である。わかりやすい例がすでに展開中の「完全メシ」シリーズだ。
「健康に良い食事」と聞くと、どこか味気なかったり、我慢を強いられたりするイメージを持つかもしれない。しかし、日清食品のフードテクノロジーは、その常識を覆す。おいしさを犠牲にすることなく、食の楽しみを維持したまま、健康的な食生活を実現することを目指しているのだ。
実際に、日清食品がこれまでに実施した研究では、「最適化栄養食」を継続的に摂取することで、血糖コントロールや血圧の改善、内臓脂肪面積の減少といった身体的な効果が報告されている。さらに、睡眠の質の向上やストレス、疲労感の軽減など、メンタルヘルスに関わる指標にも良い影響を与えることが確認されており、心身両面からのウェルビーイング向上に貢献する可能性を秘めている。
「新商品開発にはプロの料理人が必須」日清食品の〝コーポレートシェフ〟とは?
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Woven Cityで始まる「共創」の食体験
Woven Cityにおける日清食品の取り組みは、単に開発したメニューを提供するだけにとどまらない。住民やビジターである「Weavers(ウィーバーズ)」を対象としたコミュニティ「NISSIN FOOD INNOVATORS CLUB」を立ち上げ、「共創」をテーマに実証実験を進めていく。
参加者はWoven City限定で提供されるオリジナルハンバーガーをはじめ、多彩な「最適化栄養食」メニューを日常的に楽しむことができる。そして、その味やサービスに対するフィードバックを日清食品に提供する。日清食品は、そのリアルな声をマーケティングやサービス設計に迅速に反映させ、短いサイクルで改善と検証を繰り返していくという。まさに、生活者と開発者が一体となって未来の食を創り上げていくプロセスだ。
また、提供方法も未来的だ。トヨタの自動運転モビリティ「e-Palette」などを活用し、注文された食事を最適なタイミングで届けるといった、Woven Cityならではの新しい食体験の構築も目指している。これにより、利用者が楽しみながら、無理なく健康的な食生活を継続できる仕組みを検証していく。
この実証実験では、「心身の変化」や「Well-beingの実感」といった主観的な指標に加え、「医学的検査」による客観的なデータも収集・分析する。「最適化栄養食」の継続的な摂取が、人々の心と体にどのような影響を与えるのかを多角的に検証し、科学的根拠に基づいた「未病対策」のソリューションを確立していく計画だ。
世界で食べられるのはココだけ!激レアハンバーガーを実際に食べてみた!
Woven Cityのローンチイベントではメディア関係者にも「最適化栄養食」のハンバーガーがふるまわれた。世界でここでしか食べられないということで、ここからは超個人的な実食インプレッションをお届けする。果たして本当においしいのか?
まず、見た目はグルメバーガーそのもので、結構ボリュームもある。
一口ほおばってみると……え、うまい!
食欲をそそる香りで、一口頬張るとジューシーなパティの肉汁と新鮮な野菜、そして特製ソースの旨味が口いっぱいに広がる。
何も言われなければ、いたって普通のハンバーガーであり、これが本当に栄養バランスを計算し尽くされた食事なのかと驚かされる。みんな大好きジャンクフードで健康になれる未来、ジャンクフードを我慢しなくていい未来、……最高じゃないか。
驚くことにWoven Cityの住人にはこういったハンバーガーがなんと当面の間、〝無料〟で提供されるという(うらやましい!)。もちろんメニューはハンバーガー以外にも約50種類あり、今後は様々なメニューを提供していくという。ちなみに気になるのが住人以外のビジターへの提供だ。日清食品担当者に聞いてみたところ、ビジターへの提供に関しては現在のところ未定だという。「Toyota Woven City」のガイドラインに則って実施していくことになるとのことなので、今後の展開に期待したい(というか、このハンバーガーが食べられないのはもったいない!)。
「日本を未病対策先進国へ」 Woven Cityから世界へ広がる挑戦
Woven Cityのローンチイベントで、プロジェクトをリードしてきた、ウーブン・バイ・トヨタの豊田大輔シニア・バイス・プレジデントは「これからのウーブン・シティに必要なのは、みんなの「Kakezan(カケザン)」です。異なる分野、異なる文化が重なることで、新しいアイデアや価値が生まれます。その価値がまた次の価値を呼び、スパイラルのように広がっていく。私たちはそれを“Kakezan”と呼んでいます」と語った。
日清食品の挑戦は、まさにその「カケザン」を体現するものだ。長年培ってきたフードテクノロジーと、トヨタが提供する最先端の実験都市、そしてそこに住まう人々のリアルな生活。これらを掛け合わせることで、「おいしい食事を楽しみながら、自然と健康になる」という、誰もが夢見た未来の食文化が生まれようとしている。
日清食品は、この実証実験を通じて得られた知見を基に、「日本を未病対策先進国へ」というスローガンを掲げ、食を通じたウェルビーイングの向上に本格的に取り組んでいくという。Woven Cityという一つの街から始まったこの小さな一歩が、やがて日本、そして世界の食のあり方を大きく変え、人々の健康寿命を延伸させる大きなうねりとなるかもしれない。未来都市で育まれる「新たな食の常識」に、これからも目が離せない。
取材・文/石﨑寛明(DIME編集部)