
ChatGPTをはじめとする生成AIの人気は、とどまることを知らない。しかし、効果的に活用できている人は、案外少ないのではないだろうか?
主要な生成AIのトップページは、入力する空欄があるだけなので、ざっくりした質問(プロンプト)を出すだけに終わりやすい。だが、このやり方だと、返ってくる答えも大雑把なものとなりがちだ。
実は、生成AIには、求める答えを適確に出してもらうための“お作法”がある。これを知っているだけで、抜群に精度の高いアウトプットが得られる。今回は、(株)ノースサンド執行役員で、『ITコンサル1000人にAIでラクになる仕事きいてみた』(クロスメディア・パブリッシング)の著書のある谷岡悟一さんに、基本となるお作法を伺った。
音声チャットの壁打ちからスタート
――「今日からでもAIスキルをアップしたい」と思ったら、最初にやっておくべきことは何でしょうか?
スマホに、ChatGPTやClaudeといったAIアプリをインストールし、音声チャットから始めるのがおすすめです。
いきなりビジネスでの活用ではなく、自分の悩み事を話してみることから始めます。そうした会話を壁打ちのように繰り返して、慣らしていきましょう。
最初の段階では、無料のAIでかまいません。使い慣れてくると、より精度・速度の高い回答が欲しくなるかもしれません。そのときに有料版に切り替えるといいでしょう。
「背景」などを明記して回答の粒度感を高める
――ご著書には、プロンプトの基本型として、ハッシュタグ(#)の後に、指示や制約条件などを記すと書かれていますね。この点について教えてください。
ハッシュタグには、AIに「以下、こういう情報を伝えたい」という意味があります。「#指示」ですと、その直後にAIへの指示を書きます。
ただ単に「~してください」と指示しても、曖昧な答えになりがちなので、そのあとに「#制約条件」を入れて絞り込み、さらに「#背景」も記します。
「#背景」というのは、例えば「自分は新入社員で、上司から売り上げレポートの業務を振られた」など、AIに依頼するに至った事情ですね。これのあるなしで、AIの回答の粒度感が違ってきます。
「#出力形式」というのもあって、回答が表で欲しければ表で、箇条書きで欲しければ箇条書きにするよう伝えるものです。ChatGPTだと、コンセプトなどを絵として出力することもできます。
AIに上司を演じてもらうのもアリ
――「自分は新入社員」といった質問者の立場を教えるだけでなく、AIに上司など実在の人物を演じてもらうのも可能ですか?
その人物の情報をAIに与えることで、1on1ミーティングの予行演習などが可能です。情報は例えば、性別、年齢、考え方、口癖など知っていることをできるだけ多くです。
そうやってAIに性格づけして、「上司にこういった提案や相談をしたいが」と、AIと会話します。
少し高度になりますが、ChatGPTの有料プランで「AI上司」というMyGPTsを作れば1回上司の情報を入力するだけで、疑似的な上司へ気軽に相談ができるようになります。
実在の人物だけでなく、高度な知性を持った宇宙人などと設定することもできます。リフレーミングといって、自身の固定観念をいい意味で崩し、新たな発想を得る助けとなります。
プレゼン資料作成もお手のもの
――議事録作成といった日常業務にAIが使えるという話は、よく聞きます。であれば、プレゼンのスライド作成もAIにお願いできますか。例えば、新製品を出したので、製品発表会をしたいが、そのためのプレゼン資料を作成する場合はどうでしょうか?
AIでスライド作成もできます。手順として、新商品のコンセプトや、出席者にどんなアクションを取ってほしいかなど、AIと会話しながら盛り込む内容をまず決めます。
1時間の発表会であれば、スライドは何枚ぐらいが妥当かといった細かいところも、AIは教えてくれます。枚数が決まったら、全体の構成はどんなふうにするか、各ページにどんなデータを盛り込めばいいかなども確定します。ページごとに入れ込むテキストをざっとでも全部作り、AIに読み込ませると、スライド形式で出力されます。
それから、ひとまず作ったスライド資料に対し、出席者から見たら百点満点で何点か、その改善案のアドバイスもAIにしてもらい、内容をブラッシュアップしていきます。
ちなみに、プレゼン資料がマイクロソフトのパワーポイントなら、ワードでテキスト情報をまとめて、Copilotの変換機能で自社のパワーポイントテンプレートを使った資料が簡単にできます。それとは別に、プレゼン資料の図のレイアウトを詳細に作りこみたい場合はイルシルというスライド資料作成に特化したAIもあるので、そちらもおすすめですね。
商品開発は市場調査から
――より高度な業務にもAIは活用できますか。例えばお菓子メーカーが、ポテトチップスの新しい味を商品開発したいという場合、どうAIを使うべきでしょう。
商品開発にAIを導入している企業は多く、結構役に立ちます。
基本的なやり方として、自分の会社名と既存の商品名を情報として与え、商品をよく買っているお客様はどんな属性か、逆に飽きられている味は何か、どんな味を求めているかを調べてもらいます。
「新しい味は何がいい?」と最初に聞くのではなく、マーケットリサーチから始めるのが大事です。お客様のニーズを捉えた上で、AIに新商品のアイデアを出してもらうわけです。
マーケティングの計画もOK
――同様に、開発商品のマーケティング計画立案にもAIは使えるでしょうか?
マーケティングも、AIが得意とすることです。
顧客、競合、自社を分析する3C分析、コンバージョン率を高めるためのファネル分析、購買プロセスを分析するAIDMAなど、様々なリサーチを手伝ってくれます。
それらを、AIとともに実施していき、最終的にはマーケティングの施策を組み立てます。競合他社がどんなマーケティングをやっていて、自社はそれとは違うマーケティングを展開したいので、アイデアを何個か出してもらうという方法もあります。
有料版のディープリサーチを使えば、世界ではどんな先進的なマーケティングが流行っていて、自社はどう活用できるか、予算の配分はどうするかなども教えてもらうことも可能です。
職場の人間関係の改善にも使える
――オフィスワークだけでなく、社内の人間関係の円滑化にも、AIは有用でしょうか。ビジネスパーソンの悩みの多くは、上司や部下といった人とかかわるものです。上司とはどうもソリが合わなくて苦手とか、自分の部下がやる気を失っているとかですね。AIから適確なアドバイスを受け取るコツがあれば、教えてください。
社内の人間関係が難しい問題となるのは、相手の本音がわからないのが大きいと思います。
冒頭でお話したように、相手の情報を入力して、相手役のAIとやりとりします。例えば、上司と定例の話し合いがあるという想定で、その目的を自分のパフォーマンスのフィードバックなどとします。その際、AIには「上司が自分に直接言いにくい本音の部分を括弧書きで書いてください」というふうに指示します。
ずばりの本音は得られなくても、それに近いヒントは与えられるかと思います。それをもとに、現実の人間関係に活かすことができるでしょう。
■お話を伺った方:谷岡悟一さん

株式会社ノースサンド執行役員。ITコンサルティング業界で20年以上の経験を持ち、アプリケーション開発からITインフラ構築、プロジェクトマネジメントまで幅広い分野で活動。製造業や製薬業界のDXプロジェクトを支援する一方、AI技術の実務応用にも注力する。著書に『ストーリーでつかむ!プロジェクトマネジメントの原則』『「AI思考」は武器になる』『ITコンサル1000人にAIでラクになる仕事きいてみた』(いずれもクロスメディア・パブリッシング刊)がある。
取材・文/鈴木拓也
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