
いまや生成AIに関するニュースを見ない日はない。しかし、総務省の『令和7年版 情報通信白書』によれば、意外にもそれを利用する個人は3人に1人に満たない。企業の業務利用でも半数程度で、9割台の欧米中との差は大きい。
こうなると気になるのが、早くから生成AIを仕事で活用している人と、しない人とのパフォーマンスの格差だ。その格差は、今後どんどん広がっていくのではないだろうか。
もし、まだ職場で生成AIを使っておらず、ちょっと焦りを感じているなら、早めに手を売っておいたほうがよさそうだ。
そこで今回は、THE GUILDのCEOでこの分野に詳しい深津貴之さんに、ビギナーから始める生成AI使い方のコツを教えていただいた。
指示を重ねていくことを前提に
――2025年の『情報通信白書』では、生成AIを利用しないという理由の約4割が「使い方がわからない」でした。AIに質問するといっても、どんな内容の質問をどう尋ねていいかで迷う人は少なくありません。入り口の段階でのつまずきを克服するには、どうしたらいいでしょう?
AIに対して最初に「私は質問が得意ではないので、必要な情報を引き出せるように、質問の仕方をサポートしてください」などと、お願いしてみるといいでしょう。
また、AIとのやり取りは「一度質問して終わり」ではなく、対話を重ねて精度を高めていくプロセスと考えるべきです。多くの人は、一回の指示で完璧な結果を期待しがちですが、AIは指示を調整しながら活用することで真価を発揮します。
例えば、最初に大まかな指示を出し、返ってきた内容を踏まえて条件を追加したり方向性を修正したりすることで、文章作成やアイデア発想など、より質の高い成果が得られます。
最初から完璧な指示を出すのは難易度が高いですが、考えを整理して言語化する練習は役立ちます。例えば、友達の結婚式のスピーチ原稿をAIに見せて、「もっとエピソードを盛り込んで」「ユーモアを強調して」といった指示を加えることで、より良い内容にブラッシュアップできます。
単に「結婚式のいいスピーチを作って」と丸投げするのではなく、「友人が大笑いし、一生の思い出に残るような雰囲気を大切にしたい」と指示内容を具体的に伝え、AIからの提案を参考にしながら修正を重ねることで、最終的に満足のいくスピーチができあがるのではないでしょうか。
取引先の新規開拓にも活用可能
――具体的に、若手ビジネスパーソンがどう活用できるかに絞って話を進めたいと思います。例えば、営業職で新規の取引先を開拓したいという場合、どんなふうに生成AIを使うのが考えられるでしょうか。
最初のステップとして、公開情報や利用可能なデータベースをAIに分析させ、自社のサービスと相性が良い企業の候補を抽出する方法が考えられます。もちろん、リストの企業数が多すぎれば、なんらかの絞り込みは必要でしょう。
その先は業種にもよりますが、例えば、候補企業の決算資料を読み込んで、企業課題を抽出し、その課題に対して自社のソリューションを組み合わせるかたちで、提案を検討するのがいいでしょう。
競合分析から予算配分までリサーチしてもらう
――広報・宣伝戦略にもAIは使えますか。例えば、自社の新製品が近日出るとして、限られた予算でどう広めるかという課題はいかがでしょうか。
まずは、競合企業の公開情報(プレスリリース、過去の広告、SNS投稿など)をAIに整理・分析させることで、どの媒体に注力しているかや、どのような表現が多いかを把握できます。
次に、業界全体の広告手法や予算の目安について、AIに調査を依頼すると効率的です。例えば「このカテゴリーの製品で、過去どの媒体に広告が多く出されているか」「どのような広告表現が一般的か」といった質問を重ねると、参考になる情報が得られます。
業務で使用する生成AIは、無料版よりも有料版をおすすめします。Geminiなら 2.5 Pro、ChatGPTならPlusやProですね。有料版の方が処理性能や追加機能が優れており、大量データの要約や複雑な分析に向いています。ただし、どのプランでも出力内容の正確性は100%は保証されないため、現在は必ず人間が検証する前提で活用してください。
高度な業務もAIが役立つ
――有料版を使うという前提で、より専門特化した業務にもAIは有用でしょうか。例えば、プロダクトデザインのコンペに参加するとなって、何社かの競合から自社デザインが選ばれるための作戦ですといかがでしょうか。
AIは、市場動向や競合製品の特徴を把握するための情報整理に有効です。公開されている統計やレポートを基に、国内外の市場規模、売れ筋製品の傾向、競合メーカーの動き、上位の製品は何年も不動か、それとも入れ替わりが激しいのかなどをまとめさせることで、戦略の土台が作れます。
市場調査を依頼する際は、「対象製品の範囲」「期間」「顧客層」など条件を具体的に指示し、プロンプトを段階的に調整することで精度が高まります。
それから、製品デザインのコンセプトを検証するためにAIを活用することも可能です。例えば、既存のトレンドや最新研究を参照させ、強みや改良点を整理させるとよいでしょう。AIにデザイン案を生成させる場合は、参考資料として利用し、著作権やオリジナリティを確保したうえで、最終的な案は社内のクリエイターが選定することが重要です。
社内コミュニケーションの改善ではこう使う
――ところでAIは、社内的な課題にも役立つでしょうか。例えば、上司や同僚、あるいは部下との人間関係で悩むことがあった場合にも活用できるでしょうか?
ケースバイケースではありますが部下が上司に意見を伝えにくいといった、コミュニケーション上の課題がある場合、AIのサポートは役立つと思います。
例えば、まず相手に伝えたい内容をリスト化し、その上で「どのように伝えれば角がたたないか」「建設的で受け入れられやすい言い方になるか」といった表現の提案をAIに求めるとよいでしょう。
一方で、上司側が部下の状況を把握するためにAIを活用する方法もあります。例えば、日報や業務記録をAIに分析させ、社員の強みや指導が必要なポイントを整理させれば、より具体的な対応が取りやすくなります。
自分の能力を伸ばすツールとしての視点も重要
――お話をうかがってきて、現状の生成AIでもかなりのことができるのだなと実感しました。かといって、生成AIにまるっとお任せするものでもなく、人間がすべきこともクローズアップされますね。
AIが扱えるのは主に既存の情報です。インターネット上にはない現場の情報を集めたり、試作品を実際に使って検証したりと、人間にしかできない作業も多くあります。
また、AIから答えを引き出すだけでは、思考力や判断力は十分に鍛えられません。AIを、結果を出す道具としてだけでなく、自分の考えやアウトプットをレビューし、改善するためのツールとして活用すれば、スキル向上につなげていくこともできると思います。
■お話を伺った方:深津貴之さん

クリエイティブファームTHE GUILD のCEO、 noteのCXOなど、領域を超えた事業アドバイザリーとして活躍するほか、生成AIなどをテーマに執筆・講演活動にかかわる。ITジャーナリスト・岩元直久さんとの共著『ChatGPTを使い尽くす! 深津式プロンプト読本』(日経BP)があり、版を重ねるヒット作となっている。
公式サイト(THE GUILD):https://theguild.jp
取材・文/鈴木拓也
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