
「静かな退職」が浸透しつつある。「静かな退職」とは、キャリアアップや昇進などを目指さずに必要最低限の仕事をこなすはたらき方のことだ。成果主義やキャリア志向に囚われず、空いた時間を副業や社外活動に充てられるなど自由に過ごせることから注目を集めるが、実際のところ、このワークスタイルに共感する人はどれくらいいるのだろうか?
パーソルグループのパーソルイノベーション株式会社 lotsful Companyが運営する副業人材マッチングサービス「lotsful」はこのほど、全国の企業に勤める20~49歳の会社員男女661人を対象に「静かな退職と副業」に関する調査を実施し、その結果を発表した。
「静かな退職」に共感する、入社後3~5年未満の勤続年数である若手層が多数派に
「静かな退職」という考え方に対し、「非常に共感する」(26.2%)「やや共感する」(46.5%)と回答した人は全体の72.7%に上り、多くの人がこの価値観に理解を示していることがわかった。なかでも、新卒入社後3~5年未満の勤続層では、実に89.5%が「共感する」と回答しており、若手社員の間で特にこの傾向が顕著だ。一方的な成果主義や、昇進ありきのキャリア観に違和感を抱く若手が増えていることがうかがえる。
共感の背景には「ワークライフバランス」志向と「昇進」への関心低下があり、昇進意欲がある人は37.4%にとどまる
「静かな退職」に共感する理由としては、「ワークライフバランスを重視したい」(45.3%)が最も多く、次いで「昇進・昇格に関心がない・したくない」(33.6%)という声が挙がった。仕事だけに偏らず、自分らしいライフスタイルを重視する姿勢や、管理職としての負担を敬遠する意向が、「静かな退職」への共感の背景にあると見られる。
実際に、管理職への昇進意欲があると回答した人は全体の37.4%にとどまり、過半数が昇進に対して積極的ではない傾向が見て取れる。こうした結果は、従来のキャリアパスや管理職像の見直しが求められていることに加え、企業側が社員一人ひとりのキャリア自律を後押しできるような環境整備の重要性を示唆していると言える。
「静かな退職」が若年層・女性に拡大 本業は安定と副業の土台に
現在「静かな退職」を実践していると回答した人は全体の37.7%という結果になった。特に20代女性でその割合が最も高く、次いで30代女性、20代男性と続いており、若年層・女性を中心に広がりを見せている。
また、新卒入社後3~5年未満の層においては、75.4%が「静かな退職」を実践していると回答しており、実際の行動としても定着しつつあることが明らかになった。
「静かな退職」という考え方に「非常に共感する」「やや共感する」と回答した人に対し、今の本業に求める役割を尋ねたところ、全体では「安定した収入源」(46.6%)が最多で、次いで「ワークライフバランスの取りやすさ」(40.6%)がとなった。また、そのうち実際に「静かな退職」を実践している人と実践していない人を比較すると、実践している人のほうが「副業・社外活動の基盤」や「キャリアアップの土台」として本業を捉える傾向があり、本業と副業のバランスを意識したキャリア戦略が垣間見える。
「静かな退職」によって「心身の健康改善」や「生活の質向上」などポジティブな変化を実感
「静かな退職」を実践してみてどうだったかを尋ねたところ、「心身の健康が改善された」(32.3%)、「ワークライフバランスが改善された」(28.9%)といったポジティブな変化を感じている人が多く見られた。自らの価値観に合ったはたらき方を選ぶことで、当初の目的を達成している人が多いと見受けられる。
空いた時間を「副業」に活用する人が6割超
「静かな退職」によって空いた時間を、副業などの社外活動に活用している人は全体の64.3%にのぼり、多くの人がその時間の余白をキャリア形成のために積極的に使っている実態が明らかになり主体的かつ戦略的にキャリアをデザインする姿勢がうかがえる結果となった。
本業への「ゆとり」や「再評価」など、ポジティブな変化も
「静かな退職」で空いた時間を、副業などの社外活動に活用していると答えた回答者に対し、副業や社外活動を通じて本業に対する気持ちに変化があったかを尋ねたところ、「本業への期待は変わらないが、気持ちにゆとりが生まれた」(53.6%)が最多となり、続いて「やりがいを再認識し、本業へのモチベーションが上がった」(20.5%)という声も見られた。静かな退職は、本業を手放すことではなく、より持続可能な関わり方を模索する手段と捉えられていることがうかがえる。
lotsful Company代表 田中 みどり氏 コメント
「静かな退職」という言葉には、ややネガティブな印象を持たれることもありますが、今回の調査では、キャリアを諦めた結果ではなく、自分らしいはたらき方を主体的に選んだ結果であることがうかがえます。特に若手世代を中心に、昇進を目指す従来のキャリアモデルにとらわれず、副業や社外活動を通じて、自らの価値観に合ったキャリアを築こうとする前向きな姿勢も見受けられます。
若年層を中心とした今回の調査では、こうした傾向がより顕著に表れており、背景には、「本業=すべて」という所属企業に専念するしか選択肢がないという価値観からの脱却があり、企業にも、社員一人ひとりの多様なキャリア観に寄り添った制度や関わり方が求められる時代になってきているのではないでしょうか。『lotsful』では、これからも多様な人材が自分らしくはたらくための選択肢を広げるべく、副業機会の提供と企業への制度設計支援の両面から、支援を強化してまいります。
<調査概要>
調査手法:インターネット調査(Fastask)
調査対象:全国の企業に勤める会社員 20~49歳の男女
調査期間:2025年6月9日(月)~6月16日(月)
対象人数:661人
出典元:パーソルイノベーション株式会社
構成/こじへい