感動を伝染させること。カドーの布団乾燥機「FOEHN LITE」大ヒットを生んだ独自のマーケティング哲学
2025.07.16
2024年のDIMEトレンド大賞 家電部門賞金賞を受賞し、注目を集め続けているワンタッチ布団乾燥機「FOEHN(フェーン)シリーズ」。
最新作『FOEHN LITE』は、「“ぐっすり”を、どこまでも、どこへでも」のコンセプトのもと、シリーズ最小・最軽量モデルとして登場した。
不眠という現代人の課題に、ポータブル布団乾燥機はどのような解決策を提示するのか。今回は、株式会社カドー マーケティング部 部長 金崎泰真さんに、商品開発の裏側やヒットの要因、今後の展望についてお話を伺った。
*本稿はVoicyで配信中の音声コンテンツ「DIMEヒット商品総研」から一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。
ユーザーの声が原動力!進化するポータブル布団乾燥機
はじめに、金崎さんは開発のきっかけについて次のように話す。
「フェーンシリーズは、布団乾燥機のサイズやセッティング・収納の手間といった、日常使いの障壁に着目して開発しました。ふかふかで清潔な布団で眠る心地良さは、不眠に悩む人の多い日本において価値提案の大きな題材だと考えたんです。誰もが味わえる快眠体験を、より手軽に提供したい。そんな思いから誕生しました」
ワンタッチ操作での乾燥・温め機能、オゾンによる消臭・ダニ対策、静音モード、省エネ設計、簡単メンテナンス、高い安全性が備わっているだけでなく、別売りの靴乾燥スタンドやアロマアタッチメントを組み合わせることで、さらに用途が広がる。
「新たに発売した『FOEHN LITE』は、重量400g、長さ26cmのコンパクト設計です。ポータブルで海外電圧にも対応しており、どこへでも快眠を持っていけます。また、『FOEHN 002』から約32%の低騒音化を実現しました。小型ながらパワフルな温風で、シングルサイズを確実にドライできる機能を備えています」
先行販売したクラウドファンディングサイト「Makuake」では、多くの反響が寄せられた。
「スタートから4日で、2500万円を超えるご支援をいただきました。応援コメントも200件近く寄せられています。今回でシリーズ3回目のプロジェクトになりますが、ワンタッチ布団乾燥機の感動をまだ体験していないお客様からも多くの声が届いており、梅雨時期の湿気やマダニ対策など、快適な睡眠を求めるニーズの高まりを実感しています」
ネットを介して届く多くの言葉が、商品開発の大きな励みとなっていると話す。
「カドーは実店舗を持たないため、自社オンラインストアやオウンドメディア、クラウドファンディングを通じて、ユーザーと直接コミュニケーションを取りながら商品開発を進めてきました。お客様から寄せられるリアルな声や熱量のこもったフィードバックが、商品開発の大きな原動力となっています」
毎日使うものだからこそ、徹底した安心設計を
開発に当たり、「小型化と高機能化を両立する点に苦労した」と振り返る金崎さん。ワンタッチ操作、スティック形状、そしてパワフルな風量を維持するために、試行錯誤を繰り返したという。
「同商品は、強力な風圧と風量によって布団とベッドの隙間に風の通り道を作り、どの位置にセットしても布団全体に温風が行き渡るようになっています。開発時には、さまざまな大きさやタイプのベッドを使い、どこに置いても隅々まで温まるか、風量テストやダニ対策の効果検証を重ねました」
“毎日使える”よう、安全性にもとことんこだわった。
「さまざまな寝室環境や利用シーンで起こり得るリスクを想定し、10種類もの安全設計を盛り込んでいます。たとえば、毛布を巻き込む、子どもやペットと一緒に寝る、おねしょによる電源コードへの影響など、多様な状況を想定して試験を実施しました。一般的な家電の安全基準を、さらに上回る設計を目指したんです」
「送風技術とデザイン性が差別化のポイント」と話す金崎さん。そのこだわりは多くの世代を魅了し、ギフト需要も高まっている。
「近年は生活意識が大きく変化し、家族の衛生面や安心できる住環境への関心が高まっています。中でも、“睡眠”の重要性がより認識されるようになっているように思います。ただ、どれだけ布団乾燥の良さや快眠への効果が分かっていても、日常的に継続できなければ意味がありません。布団乾燥機の使用を日常化することが、大きなテーマでした」
共に成長し、もっと日常へ。そして、感動体験を多くの人へ届ける
認知拡大には、オウンドメディアやSNS、LINEなどを活用した。
「発売前から、ファン層への情報発信やコミュニケーションに注力しました。たとえば、クラウドファンディングを始める前段階で、SNSやオウンドメディアを通じた訴求や、事前アンケートによるユーザーの意識調査を実施したんです。お客様から届く期待の声や熱量は、クラウドファンディングや製品ローンチに生きてきました」
金崎さんは、「お客様からのメッセージが何より嬉しい」と話す。寄せられる厳しいご意見を大切に受け止め、率直な声に正面から向き合うことで、より良い製品開発に活かしてきた。
「初代モデル『FOEHN 001』では、使用時の音が気になるという声が寄せられました。お客様のフィードバックを受けて、後継機種『FOEHN 002』では静音モードを追加するなど改良を重ねました。ユーザーとのコミュニケーションを通じてシリーズをアップデートできたのは、失敗でもあり良い意味での課題でもありました」
今後は、まだ“感動体験”を味わっていない方に向けて、積極的にアプローチしていくという。
「睡眠に悩んでいる方は多く、『良い眠り』を求めてあらゆる方法を模索しています。そんな中、布団を快適な状態に整えることは、シンプルでありながら、ぐっすり眠るための確かな方法です。歯磨きのように、毎日のエチケットとして布団乾燥を取り入れることができれば、暮らしの質そのものが大きく上がると考えています」
「FOEHN LITE」の使い方はさまざま。“布団乾燥機のイメージ”にとらわれず、夏場や朝に使用することで、新しい感動体験を得られる。
「夏場の湿気は、寝苦しさの原因になります。同商品を使えば、10分ほどで布団の湿度が約60%も下がるので、すぐにサラッとした心地よさを実感できます。また、朝にワンタッチしておけば、夜までその快適さが続くというのも大きなポイントです。帰宅したときや寝る前に、まるでホテルのベッドのような“ふかふかの布団”が待っているのは、日々の暮らしの中で幸せを感じてもらえる瞬間だと思っています」
“感動を伝染させる”カドーの成功法則と次なる挑戦
金崎さんは、ヒットの要因について次のように分析する。
「従来の布団乾燥機は、使いにくさや収納の手間が課題でした。そこで、私たちカドーは、小型化や高機能化、安全性にこだわり、誰でもワンタッチで使える製品を開発しました。ふかふかの布団で眠る幸せ体験が多くの方に伝播したことが、ヒットにつながったように思います」
暮らしの中に新しい感動を生む瞬間こそが、最大のマーケティング、と続ける。
「乾燥後のベッドに、娘を寝かせてみたんです。ふかふかでサラサラの布団に大喜びしながら転がり回る姿を見て、気持ち良い布団で寝る幸福感のインパクトを実感しました。実際に体験して感動したお客様の“熱量”は、口コミやレビューを通じて周囲にも広がり、私たちメーカーにまで返り、次の製品開発へとつながっていきます。改良を重ね、布団乾燥機から、毎日使える“睡眠健康機器”へ進化させていきたいと考えています」
自社の送風技術を生かし、2025年6月にはカドー初の手元で日々使用できる家電製品「ハンディファン」もローンチした。カドーはこれからも、“物づくりを通じて感動体験を伝染させる”ことを使命としていくという。
「ものづくりを通じて生まれる感動体験こそが、ずっと使い続けたくなる家電の可能性につながると信じています。カドーはこれからも皆さまの声に真摯に耳を傾け、暮らしに感動を届ける新しい価値提案を続けていきたいと思います」
取材・文・撮影/久我裕紀 構成/DIME編集部