
物語の登場人物として参加する、体験型エンターテインメント「マーダーミステリー」が手軽に遊べるマダミスアプリ「ウズ」。2021年のローンチ以降、累計プレイ数は100万回を突破。月に40作品をリリースし続け、まだまだ成長を続けている。
今回は、株式会社Sally代表取締役 平石英太郎さんに、開発の経緯やヒットの要因、苦労した点について話を聞いた。
*本稿はVoicyで配信中の音声コンテンツ「DIMEヒット商品総研」から一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。
物語を創る、体験する、感想を共有する。新しい遊びのカタチ
マダミスアプリ「ウズ」は、遊びたいミステリーを選ぶところから始まる。
「ミステリーを選んだら、登場人物の数だけプレイヤーを集めます。次に配役を決め、各プレイヤーは自分の役の人生が書かれた本を約20分かけて読みます。例えば『嵐の山荘事件』なら、犯人役の本には殺害の動機やこれまでの人生について、それ以外の役には山荘に来た理由や事件当時の行動などが書かれています。推理を進め、最終的に投票を行う流れです。投票結果に応じて、エンディングが複数用意されています」
同アプリは、女性のプレイヤーも多い。登録者は20代から30代が中心で、利用時間帯のピークは23時頃だという。
「仕事帰りにプレイを楽しむ方が多く、熱中するあまり、プレイ終了時刻が深夜に及ぶことも珍しくありません。プレイ時間は3時間でも、同じくらいの時間を『感想戦』に費やしてしまうんです。上手いプレイヤーにコツを聞いたり、感情移入して泣いてしまったプレイヤーにその役のバックストーリーを聞いたりして盛り上がります」
平石さんは、同アプリの立ち上げ背景について、次のように話す。
「アプリを作る前は、Discordを使ってマダミスを遊んでいました。Discord上に司会進行役の人がいて、『9月1日の22時半からこのゲームやりますけど、来る人いますか?』と呼びかけ、プレイヤーを募集します。ただ、司会進行役の人が足りなくて、人気のマダミスだとすぐに枠が埋まってしまう課題がありました。司会進行役の役割を自動化できれば、より多くの人が気軽にマダミスを楽しめるのではと考え、アプリの開発を始めたんです」
マーダーミステリーが日本に入ってきたのは、2019年。当時はボードゲームの一種に近かったものの、現在ではその在り方が変わってきている。
「当初は『マーダーミステリーゲーム』と呼ばれていましたが、今では『ゲーム』の言葉が消えました。ゲームよりも『物語体験』に近くなっているからだと思います。物語の登場人物になりきって、葛藤や意思決定をしていく。映画のように観るだけでなく、自分が物語の中にいるような感覚を体験できる。没入感の重さが受けるコンテンツになっているように感じています」
プレイヤーからクリエイターへ。広がる「ウズ」の可能性
「ウズ」の作品数は、890作品を超える。たくさんのコンテンツが用意されている点も、多くの人に支持される理由の一つだ。
「作品数は、月に約40冊のペースで増えています。ミステリーは鉄板ですが、近ごろは世界観を楽しむ『マーダーミステリーセッション』も流行しています。各プレイヤーが、ある世界観や規律の中で最大限自由な行動をしていくことで、かけがえのない物語になっていくものです。没入するあまり、途中から自分と登場人物の区別がつかなくなる方もいますね」
最近では、ユーザーからクリエイターに転向する人も増えている。アプリの中でリリースされる作品は、なんと95%以上がユーザーが作成したものというから驚きだ。
「『ウズ』は、各ゲーム1回しか遊べません。だからこそ、コンテンツの数が重要です。効率良くリリースし続けるために、まずは専用のプログラミング言語を作りました。次に行ったのが、制作ツールのリリースです。現在のウズスタジオの原型ですね」
ウズスタジオは、マダミスを作ることができるブラウザ型ゲーム開発ツール。ユーザー登録をすれば誰でも無料で使用でき、マダミスのアイデアを簡単に形にできる。
「有料で作品をリリースすると、収益が一部還元される仕組みです。中には、『ウズ』の収入で生活している人もいます。また、長文の感想を送ってくれる人の割合が12%と高いのも魅力です。全作品に一定数の露出があり、多くの人にプレイしてもらえるため、書く量に対して効率良く感想が届くんです」
ネットワーク効果で認知拡大!好循環を生み出すカギは“作品数”
マダミス市場が活発化する中、「ウズ」の差別化ポイントとなっているのが作品数だ。
「次々に新作が投稿されるため、効率良くデータ収集ができます。例えば、特定ジャンルの作品がリリースされた際の初動のプレイ人数やユーザー満足度、作者ごとの集客率など、通常では作者とプラットフォーム運営しか知り得ないデータを、全ての作品で分析できます。また、編集機能を通じて、丁寧なクリエイターさんを把握できるのも強みです。こうした情報は、今後の企画立案や大型プロジェクトの際に、誰と組むのが最適かを判断する材料になります」
マダミスがそれほど浸透していなかった立ち上げ当初。認知拡大のために意識したのが、ネットワーク効果だった。
「『ウズ』で遊ぶには、プレイヤーを集めなければなりません。例えば『歪んだ実験室の殺人』で遊びたいと思ったら、‟プレイ当日に4時間半を確保できる未プレイの人”を5人集める必要があります。友人だけではプレイできないから、自分のネットワークの中から興味のありそうな人に声をかける。つまり、既存のユーザーが新しいユーザーを連れてくる仕組みです。新しいユーザーが増えれば、クリエイターさんが増えて、作品が増える。作品が増えれば、遊ぶためにユーザーを誘う行為が増えるといった好循環が生まれます」
認知拡大を実感した印象的なエピソードについて、平石さんは次のように話す。
「資金調達をしていたとき、投資家の方に『娘がやっています』と言われたことがありました。あとは、好きなYouTubeグループに取り上げてもらったのも嬉しかったですね。面白い施策で言うと、金田一少年の事件簿とのコラボがあります。名作とのコラボということで、大きな反響がありました」
プレイヤーとクリエイターに敬意を持ち続けることが大事
「ウズ」の開発を通して、「クリエイターさんが『作って良かった』と思えるツールを作れて良かった」と話す平石さん。喜びがある反面、苦労した点も多かったと振り返る。
「大きなバグが発生し、ユーザーに迷惑をかけてしまったときは、申し訳ない気持ちになりました。『ウズ』から離れてしまうユーザーも出てしまい、負のネットワーク効果を痛感した一件です。一方で、開発体制の見直しや、起こりうる問題への対処法を考えるきっかけにもなりました」
平石さんは、同サービスがヒットしている理由について、次のように分析する。
「ひとえに、クリエイターの皆さんの素晴らしい創意工夫があってこそだと思います。私たちは、そんなクリエイターさんをサポートする役目があります。安定したアプリ運用はもちろん、台湾、そして韓国へと展開することで、世界中のユーザーに作品を届け、多様な言語でのフィードバックが得られる機会を提供したいと考えています」
最後に、リスナーに向けてメッセージをもらった。
「マダミスは簡単に始められる遊びなので、ぜひ始めていただきたいです。『ウズ』には観戦機能があるので、人がやってるのを見てみるのも良いと思います。通話なしで体験できる『一人マダミス』もあります。既存のプレイヤーさんもとても親切なので、ぜひ1回遊んでみて、楽しいこの世界に入ってきてください」
取材・撮影・文/久我裕紀 構成/DIME編集部
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