
富士通時代から長きにわたってPCの開発・販売を続けてきた、富士通クライアントコンピューティング(以下、FCCL)。2024年は家電量販店などの年間販売シェアでトップを獲得し、今年1月には製品のブランドリニューアルを発表。2月には国内PC累計生産数5000万台を記念したイベントを開催するなど、今、最も勢いのあるPCメーカーだ。その舞台裏について、同社の代表取締役社長である大隈 健史氏に取材した。
大隈体制になり、悲願のナンバーワンを達成
同社は、家電量販店などの実売データ(POSデータ)をもとにした集計で、ノートPC部門とデスクトップPC部門のトップシェアを獲得(出典:BCN AWARD 2025)。これは、分社化される以前の富士通時代から通しても初の出来事だ。トップ獲得に至る要因はなんだったのだろうか?
代表取締役社長の大隈 健史氏。McKinsey&Companyで日本支社・フランクフルト支社で、8年間にわたりコンサルティングを担当。その後、Lenovoに入社し、アジアパシフィック地域におけるPCおよびスマートデバイス事業グループの中小企業セグメントを統括するなど要職を歴任した後、2021年、FCCLの代表取締役に就任。
――年間トップシェアを獲得できたのは、何が要因ですか?
何か奇をてらったことをやったり、戦略的にものすごい変化を加えたりということは、実はありません。強いて言うなら、やるべきことをきっちりやり切ったということでしょうか。
――具体的にはどういったことをしたのでしょうか?
やはり、国産ブランドではなければできない点に特化してきたのが大きいと思います。グローバルを中心に展開しているPCメーカーは、世界向けに作ったモデルの一部を日本でローンチするというやり方です。一方、我々の製品戦略は企画段階から日本市場に特化し、それを突き詰めて開発してきました。その結果、世界最軽量のノートPCをはじめ〝製品力〟が突出したモデルを作ることができています。
――トップシェアの獲得には〝製品力〟が最も大きかったということでしょうか?
〝販売力〟を強化してきたことも結果につながっていると見ています。おそらく、ほかのPCメーカーを凌ぐであろう100人以上という営業部隊を、日本国内のエリアに展開中です。全国各地の量販店ときっちりと関係性を作り、困ってることに対応する。そのような地道な取り組みで、販売につながる営業網をしっかり築けていると自負しています。
――ほかにも考えられる要因はありますか?
PCメーカーとして選ばれるためには、サービス面も欠かせない要素です。コールセンターをどう構築するのか。グループ会社の島根富士通とはどのように連携してサポート体制を整えるのか。〝売って終わり〟ではなく、それらのことに対して向き合い、きめ細かいサービスを提供してきました。何か劇的な変化を加えたというよりは、国産ブランドとしてやるべきことを積み重ねてきた結果として、トップシェアを獲得できたと思っています。
業績躍進のきっかけは社員の意識改革
よりよい製品を作り、しっかりと販売し、万全の体制でサポートする……。大隈氏がトップシェア獲得につながったと語る、PCメーカーとしての〝王道〟をきっちりとこなすことができたのには、どのような背景があったのだろうか。
――長年の悲願と言えるシェアNo.1を、社長着任から約3年で実現したわけですが、これまでにどのような取り組みをされてきたのですか?
私が社長に着任した2021年4月以降、当初は200数十名いる幹部社員とミーティングを重ねて彼らの声に耳を傾け、考えていることを理解しようと努めたのです。その結果として見えたのは〝良い製品を作る〟という点においては社員が誇りを持っていて、当時の段階でも〝うまく回っている〟と感じました。
一方で、販売面では〝二番手でも構わない〟という雰囲気がありました。20~30年の間、量販においては〝No.2ブランド〟という立ち位置をきっちりと維持してきたので「別にこれでいいんじゃないか」というところはあったんだと思います。
――そのような社員の意識をどう改革していったのでしょうか?
その当時〝No.1ブランド〟とのギャップが、決して大きかったわけではありませんでした。そうであれば「知らず知らずに掛けていたブレーキを取り払って〝No.1〟を獲得しましょう」「〝No.1ブランド〟の景色を見てみませんか」と、組織全体を〝焚き付けた〟わけです。私は「競争するのであれば必ず勝ちたい!」という性格なもので(笑)。
そのように〝焚き付けた〟結果、量販店の皆さまから「FCCLって元気だね」「FMVっていいよね」という言葉をいただくことが徐々に増えていきました。そのような意識の変化も相まって、トップシェアを獲得するという大きな目標を達成できたことにより、社員はさらに自信を持てているように感じます。やはり〝No.1ブランド〟に上り詰めたというのは、当然ながら非常に良い経験だったのかなと思っています。
幹部社員との対話を通じて、グローバルメーカーを凌駕するだけの技術力を持ちながら二番手に甘んじてきたFCCLが抱える課題を感じた大隈氏。〝トップシェアの獲得〟という明確な目標を立て、社内の意識を改革していった。
社内にも大きな影響を与えたブランドリニューアル
ブランドリニューアルは、業績が不調な時にテコ入れとして実施するケースが多い。しかしながら、トップシェアを獲得したタイミングでFCCLがなぜブランドのリニューアルに踏み切ったのだろうか。ここからは、ブランドリニューアルで陣頭指揮を執っているFCCLマーケティング本部本部長の藤田博之氏にも話に加わってもらった。
――大隈社長はどんな理由から、製品ブランドのリニューアルに踏み切ったのですか。
〝タッチおじさん〟や木村拓哉さんをCMに起用するなどの取り組みで成長させ、これまでに継承してきたFMVのブランド力や認知度が、最近はジワジワと下がってきているのではないかという危機感がありました。それを払拭するために、FMVは昔に流行したPCブランドではなく、将来に向けて新しいことをやり続けるという意識表明をしようと。そういった理由から、製品のブランドリニューアルに至ったのです。
――藤田本部長はブランドリニューアルに当たり、どんな点に注力されたのでしょうか。
ブランド名の『FMV』は継承しつつも「シンプルで分かりやすいこと」「現代の価値観に合うこと」「日本の暮らしを応援すること」の3点をコンセプトにして展開していくことにしました。例えば『LIFEBOOK』『ESPRIMO』といったシリーズ名を『Note』『Desktop』に変更した点です。
ひとつのブランドでありながら商品ごとに別々のシリーズ名をたくさん付けるのは、もう今の時代に合いません。PCに詳しくないユーザーでも『Note』や『Desktop』といったネーミングで十分にイメージが伝わりますからね。リニューアルと同時に発表した製品『FMV Note C』は、従来の開発体制とは異なるアプローチで開発しました。
ブランドリニューアルを象徴するアイテムのひとつが『FMV Note C』。スマホネイティブ世代が作ったZ世代向けPCだ。従来のPCとの違いについても「DIME」で取材した。詳細は該当記事)にて。
スマホネイティブ世代が作ったZ世代向けPC「FMV Note C」は既存のPCと何が違うのか?
スマホネイティブなZ世代にとって、PCは難しくて面倒なもの──。そんなイメージを払拭しようと、老舗メーカーが本気で考え、生まれたのが『FMV Note C』だ。...
――ブランドリニューアルを進められた中で、藤田本部長が感じられた社内の変化などはありましたか。
前述の3点をコンセプトとするブランドリニューアルの手法には、社内で賛否両論がありました。しかし、二の足を踏んでいたことについて挑戦してみたら「コレって実はできるじゃん!」ということがわかってきたんです。『FMV Note C』なんて、まさにそのことを体現しているようなもの。そういった〝気づき〟が現在では社員の中で醸成され、新しいことにトライしていこうという機運が高まっていると感じますね。ブランドリニューアルが社内にもたらした影響は大きかったです。
マーケティング本部本部長の藤田博之氏。長年、同社の『FMV』シリーズのデザインを手がけてきたチーフデザイナーだったが、マーケティング本部長に大抜擢。『FMV』のブランドリニューアルを担っている。