
生活残業は、生活費を稼ぐ目的で意図的に残業する行為で、企業の人件費増加や生産性低下、企業イメージの悪化を招きます。企業側の評価基準や賃金の低さ、勤怠管理不足、従業員の生活費確保の必要性が原因となります。対策として、成果評価の導入、残業許可制の実施、社内コミュニケーションの強化が重要。企業全体で意識改革を進める必要があります。
本来、残業は企業内で定められた労働時間内に業務を完了できないときに発生するものです。
しかし、業務遂行の目的ではなく、残業代を稼ぐ目的で残業をする人がいます。この行為を、“生活残業”と言います。この生活残業を放置すると、人件費が増加することはもちろん、職場全体の士気を下げてしまい、さらには生産性を低下させることにもつながる恐れがあります。
今回は、生活残業を放置することのリスク、生活残業が発生する原因、そして、管理者が取り組むべき生活残業をやめさせる方法をご紹介します。
生活残業とは
生活残業とは、冒頭で触れたように、「生活費を稼ぐ」という目的で意図的に残業する行為のことを指します。
生活残業は、ネットサーフィンや雑談などを行うことで意識的に仕事の効率を落とし、残業を行う「ダラダラ残業」のほか、タイムカードの不正打刻などで残業時間を不正に申告する「カラ残業」など犯罪にあたるものもあります。
今は物価が高騰する一方、賃金アップは一部の企業に限られており、生活残業代ありきの賃金でないと生活がままならない人もいます。生活残業を行ってしまう人たちには、そうしなければならない状況にある可能性も考えられます。
■生活残業を放置するリスク
生活残業を放置していると、企業には下記の3つの影響を及ぼします。
・人件費の増加
・従業員の生産性の低下
・企業イメージの低下
この3つについて説明していきます。
1.人件費の増加
生活残業によって残業代が増えると、人件費も増加します。残業が増えてもそれだけ業務の進捗があれば問題ないのですが、生活残業ではそれが望めないため、コストだけが膨らむことになります。
2.従業員の生産性の低下
生活残業を行う従業員がいる職場は、他の従業員のモチベーションが低下します。
その理由は2つあり、1つは、残業するという労働時間の長さで評価される傾向がその職場にあることです。そもそも、評価されるべきは、働いている時間よりも成果を上げているかどうかです。成果よりも労働時間を評価している職場であれば、定時内で成果を上げている優秀な従業員が頑張っても意味がないと思ってしまっても仕方ないと言えます。
3.企業イメージの低下
残業をする従業員が多くいる職場には、長時間労働を強いるイメージが定着しやすく、それは企業イメージの低下につながります。一度落ちたイメージは回復に時間がかかるので、悪いイメージを定着させないこと、つまり生活残業を常習化させないことが大切です。
生活残業が発生する原因とは
生活残業が発生する原因は、企業側、従業員側それぞれに考えられます。ここではその2つに分けて取り上げていきます。
【企業側】1.労働時間が評価される環境
働き方改革などによって過度な残業を制限する動きはあるものの、まだまだ企業によっては労働時間の長さが評価基準となっているところもあります。その企業の上層部にいる人たちが長時間労働をしてきた風土がある場合には、残業は当たり前という空気がすでにできてしまっている可能性もあります。
そのような風土や評価基準は、生活残業をする従業員を作ってしまう原因と言えます。
【企業側】2.基本給が低い
残業代がプラスされることでやっと生活を維持できるほどの低賃金であることも、生活残業を行う従業員が増える原因です。
近年では物価高などの影響で、あらゆるもののコストが増えています。このため、基本給では生活がままならなくなってしまっている従業員も少なくないことが予想されます。
【企業側】3.勤怠管理がされていない
勤怠管理がしっかりとされていない企業では、生活残業を助長させる可能性があります。上司の承認も必要なく、従業員が自分の判断によって残業できる環境では、生活残業を把握することさえも難しいでしょう。
【従業員側】1.生活費のため
企業側の2.の基本給が低いことが原因で、従業員は残業代によって生活を成り立たたせるしかない場合には、生活残業を行う人は増えていく傾向があります。
もちろん生活費ではなく浪費によってやっている場合もありますが、生活残業をすることを望んでいなくても、低賃金によってそうしなければならない状況だということです。
管理職が取り組むべき生活残業をやめさせる方法
基本給を上げる、勤怠管理システムを導入する、などは企業側が行うべきことであり、管理職が1人で行えることではありません。ここでは、管理職が取り組むことのできる、生活残業をやめさせる方法をお伝えします。
1.残業よりも成果や貢献度を評価する
労働時間よりも、成果や会社への貢献度を評価対象にするようにしてください。管理職として、人事などとともに評価基準や昇進基準の見直しを行いましょう。企業全体をすぐに変えることは難しいですが、少しずつでも意図的な残業よりも成果が評価につながるという風土を作っていくことが大切です。
2.残業を許可制にする
生活残業が通用する企業は、従業員が自らの意思で残業を行える環境にあることが多いです。その環境をなくすために、残業を上司の許可制にするよう、企業側に提案してみてください。この取り組みは無駄な残業を削減することにつながります。
3.社内での円滑なコミュニケーションを図る
労働時間を把握するためには、社内での円滑なコミュニケーションを図ることも重要です。仕事は1人で行うものではなく、チームとなってみんなで取り組むものです。1人ひとりの仕事内容を周囲と共有している会社では生活残業を行うことが難しくなります。
仕事内容を共有することによって仲間意識が芽生え、仕事に対する意識を高められます。みんなにこの意識が芽生えれば、生産性が上がることも期待できます。
文・構成/藤野綾子
ライター・編集者。産業カウンセラー、EAPメンタルあヘルスカウンセラー、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種の資格を持つ。大学に通い直し、心理・福祉の国家資格取得に向けて勉強中。教育施設、就労移行施設などでカウンセラー研修、実務も続けている。