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出版不況なのに続々参入!なぜ「ひとり出版社」が増えているのか?

2025.03.09

不況と言われて久しい出版業界。出版社や書店の倒産・廃業が相次ぎ、特に書店は25年前と比べて約半分の1万店ほどにまで減っている。

一方で、一個人が運営する出版社が各地で増えている。その多くは兼業で、年に1~2冊といったゆるやかなペースで本を出し、書店などで流通させる。そうした、「ひとり出版社」を商う人は、筆者の知り合いにも何人かいる。

印刷や宣伝など費用面で大きなリスクを負いながら、「本の売れない時代」に挑むのはなぜだろうか?

そのヒントを探るべく、京都市で「UEMON BOOKS(ウエモンブックス)」を運営する熊谷聡子さんを訪ねた。

最初に書店業を手掛ける

熊谷さんは、大学を卒業後、京都の出版社に5年ほど勤務。退職後、主婦をしていたが、2018年に書店「絵本のこたち」を開業する。

店舗は、自宅隣りのかつては物置だった建物を改装してできた。中は丸太小屋のおもむきで、大きな本棚には絵本が立ち並ぶ。暖色の照明が、落ち着いた雰囲気を醸し出している。

多数の絵本が陳列された「絵本のこたち」の売り場

「UEMON BOOKS」を開業したのは、書店開業から5年後の2023年のこと。最初の1冊目のタイトルは「ちいさい舟」。美術作家である夫の誠さんが、鉛筆で描いていた「舟」シリーズの絵からインスピレーションがわき、熊谷さんがストーリーを添えて絵本とした。

売価は2200円。部数は非公開だが、ハードカバーでフルカラーの絵本ともなれば、それなりの制作費用になる。ただ、原画は既にあり、DTP作業もそれほど困難ではなかったそうで、コスト面は意外と抑えられたという。

販路開拓も宣伝もすべて1人で

気になるのが流通面。作った本を全国の書店に販売するとなれば、大手のトーハンや日販をはじめとする、書籍専門の卸売業者と取引するという大きなハードルがある。

熊谷さんは、これを(株)子どもの文化普及協会や(株)鍬谷書店といった、中小の業者に活路を見出した。

こうしたところは、ひとり出版社にも門戸を開いており、かなりフレキシブルに対応してくれるという。もちろん、「絵本のこたち」の棚にも置いて、なじみの顧客にもアピールしている。

熊谷さんが注目するもう1つの販路が「文学フリマ」。一般社団法人文学フリマ事務局が運営する、書籍の即売会だ。

発足して20年余りの歴史を持ち、東京・大阪といった大都市だけでなく地方都市でもたびたび開催。通常は1日限りのイベントで、出店ブースも机とパイプ椅子の簡素なものだが、多くの個人や小さな出版社の作品が一堂に会する。少部数を販売して、またたく間に完売するなど成功事例も多い。

熊谷さんは、去る2月9日に「文学フリマ広島」に出店し、いくらかを売り上げた。そこに出向く旅費は、当然持ち出しだが、「ついでに旅行に行けたと考えればいいのです」と屈託がない。

PR活動も、熊谷さんが手ずから行っている。「ちいさい舟」の原画展を随所で開催し、書店内でのトークショーにも参加するなど、草の根から多くの読者に知ってもらう努力は欠かさない。

納得のいく作品を生み出すのが一番大事

「ちいさい舟」で手ごたえを感じた熊谷さんは、2024年11月に絵本『となりのゆうくん』を刊行する。ストーリーは引き続き熊谷さんが担当したが、絵はアニメーション作家、多田文ヒコさんの手になる。席替えで隣同士になった小学生の交流がテーマになっている。

「UEMON BOOKS」が刊行した2点の絵本

「現代は、メディアや価値観の多様化だったり、コロナ禍があったりで、子どもたちに共通の話題は減ってしまいました。でも、給食の時間に一緒に笑ったなといった記憶は、結構大事だと思います」と熊谷さんは語る。

絵は軽妙なタッチだが、今の時代に何かとても大事なものが失われつつあることへのメッセージを感じる。

「売れるための努力も必要ですが、何より重要なのは、自分の納得のいく作品を自分の思うように作り上げることです。例えばこれが、出版社に持ち込んでのものだったりすれば、なかなか作品を自分でコントロールすることはできません」と、熊谷さん。

熊谷さんは、今後も年に1冊ぐらいのペースで絵本を出し、ひとり出版社を続けていきたいという。

自ら生み出した絵本を手にする熊谷さん

ひとり出版社は、「大きく儲かる」というレベルに到達するのは難しい事業だ。それでも参入が絶えないのは、「自分の作品を生み出す」こだわりが理由の1つなのだろう。市場規模は減少しても、本という文化は決してなくなることはない。多くのひとり出版社の存在が、この文化を下支えしていくはずである。

「UEMON BOOKS」公式サイト:https://uemonbooks.com/

取材・文/鈴木拓也

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