
この記事では、部署異動による心身の不調の要因、不調時のセルフケア、異動してきた部下を迎え入れる側のケアを解説しています。心身の不調は人間関係の構築、環境変化、業務量の変化、期待値とのギャップ、責任の増大が要因です。セルフケアには休日の楽しみ、太陽光浴びること、人に話すことが効果的です。部下を迎える側は個別面談や対面ケアを推奨します。
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ひとことで「部署異動」といっても、自ら異動を希望し、その希望が叶っての異動、想定外の辞令、昇進や昇格にともなう異動、などさまざまな事情や背景があります。
また、スペースが変わるだけの異動から引っ越しをともなう異動まで、環境の変化にも大小があります。ただ、どのような異動であっても変化にはストレスがつきものですから、異動が多い時期は心身に不調が生じる人が増加する傾向があります。
今回は、部署異動によって心身に不調が出る要因、不調が出てきた場合に行いたいセルフケア、さらに異動してきた部下を迎え入れる側が行いたいケアを解説していきたいと思います。
心身に不調が出る要因
まず心身に不調が出る要因について解説していきます。
■1.人間関係の構築
異動によるストレスとして、もっとも多いものが人間関係です。新しく業務を覚えることは、マニュアルの確認や、動作の勉強といった自分の努力で向上しますが、業務を教えてくれる人や仕事上密接に関わる人との相性は、自分の努力だけではどうにもならない側面があります。
対人関係を構築していくことは、しばしば業務を覚えることより難しく、この自分の努力ではどうしようもないという感覚がストレスを強くしてしまいます。
■2.環境変化
屋内での業務から屋外中心の業務に変わる、デスクワーク中心から車や公共交通機関での移動が多くなる、業務を行う場所の温度が暑すぎる・寒すぎる、など異動によって肉体的な感覚変化を伴うケース。
あらかじめ、そういった変化を納得しての異動なら、ストレスは少ないだろうと思いがちですが、「想像以上だった」という感覚は、逆に強いストレスになることがあります。
■3.業務量の変化
法的に問題がない残業時間であれば、心身に不調が出ないとは限りません。多忙な部署から全く残業がない部署に行くなど、一見すると負荷が小さくなったと思える変化でも、1日のうちで仕事に費やす時間が大きく変わると、生活のパターンも変わります。
日常のルーティンが大きく変化することに心と体がついていかなくなることで不調が出やすくなります。
■4.期待値とのギャップ
自ら希望した部署に異動できた。それ自体は喜ばしいことですが、初期の期待値が高すぎたがゆえ、実際に入ってみたときの些細な違和感が大きな失望に変わってしまい、モチベーションが一気に低下し、メンタル不調につながっていくことがあります。
■5.責任の増大からくるプレッシャー
たとえば、現場で優秀であったことが認められて、昇格や昇給を伴って関連部署にとして異動するといった異動がこれに該当します。
特に、現場担当からマネージャー的な役割に変わる場合に生じやすい要因となります。
マネジメント業務は非常に向き不向きがはっきり出るのですが、担当で優秀な人は真面目な人が多いため、「自分にマネジメント業務は合わない」と思いつつも責任を果たさなければと心身に不調をきたすまで頑張り続けてしまうのです。
心身に不調を感じたら―自分でできるセルフケア―
次の章では自分が心身に不調を感じた場合に、行うべきセルフケアについて紹介していきます。
■1.休日はしっかり楽しむ
異動したばかりで疲れたと、休日はゴロゴロしていたい気持ちは当然でしょう。多少の寝坊もありです。しかし、ストレスを抱えている状態で終日だらだらしていると、思考はネガティブな方向に行きがちです。
さらに、一人での思考は雪だるまのようにどんどん大きくなります。人間には「慣れていく」という能力が備わっています。人間関係や職場環境などに慣れてくると、軽くなる異動ストレスもたくさんあります。休日に、一人で考え込む時間をなるべく作らないように意識してください。
■2.太陽の光を浴びる
過度なストレスはうつ病の危険因子です。うつ病は、脳内物質であるセロトニンの不足が関係すると言われていますが、日光をたっぷり浴びると、セロトニンの分泌が盛んになることがわかっています。
外に出るのは運動でなくても、いつものスーパーに徒歩や自転車で行ってみる、動画を見る場所を公園のベンチにする、ランチを外で食べる、など家でもできることを太陽の下で行うだけで、うつの予防や軽減になります。太陽の光を浴びる生活を意識的に取り入れてください。
■3.人に聞いてもらう
一人で抱えこもうとせず、友人や同僚などに気軽に話したり相談しましょう。特に異動や転職経験がある人の体験談から、「自分一人じゃないんだ」と安心できたり、学べることもあるものです。
真面目な人ほど自力で乗り越えようとしてしまいがちですが、辛いときに助けてもらうことに罪悪感を持たないでください。
異動したての部下に―上司が行うべき部下ケア―
部下が異動でストレスを感じている予兆があるとき、上司が行うべきケアについて紹介していきます。
■1.個別面談を行う
異動して1ヵ月程度を目途に、個別面談を行うことをおすすめします。社内ですれ違ったときに声かけしていることを、「ケアしている」と考える方が時々いますが、これは異動したばかりの部下へのケアとしては不十分です。
また「何かあったら気軽に相談して」と、本人の自主性に任せた言葉かけもおすすめできません。人は、安心安全な空間でこそ本音が言えます。
■2.対面面談を行う
リモートワークが定着し、リアルではほとんど部下と顔を合わせないという会社も増えてきましたし、上司と部下の働いている場所が異なるというケースもありますが、異動したばかりの部下に対しては、できるだけ対面で話を聴くというフォローを行ってください。
ストレスは顔色や表情、声のトーンなど、言語化できない部分に表れやすいです。10回のメール往復より1回の面談です。
■3.社内資源を活用する
異動してきた部下の元気がないと感じたら、異動する前の部署の上司や同僚に、前の部署での様子を聞いてみる、事業場が離れているなど間近で部下を見れない状況の場合は、OJT担当から報告をあげてもらう、など社内の人的資源を活用しましょう。
■4.社外資源を活用する
産業医やカウンセラーなど、従業員の心身の健康をサポートしている社外資源がある場合は、積極的に活用しましょう。異動して3ヵ月は、社外サポーターとの定期的な面談を実施するなど定例化することもおすすめです。
まとめ
部署異動はそれが望んだものであっても、ストレスはかかるものです。しかし通常は異動して数ヵ月程度経つと、日常が円滑にまわってくるものです。
したがって、今回お伝えしたケアを行っても日常生活が日々困難になるという方は、業務と自身の適正のマッチングについて考えてみることも大切。
産業カウンセリングの源流の一人であるF・パーソンズが提唱した言葉で、「丸いクギは丸い穴に」というものがあります。
丸い穴である部署に、四角い釘を無理やり通そうとしても、それは心の傷を深くしていくだけです。
ケアを行っても不具合が修正されない場合は、仕事とのマッチングが合っているかについて、当人、上司双方が考えてみる必要があるということも心に留めておいてください。
文/小日向るり子
フィールマインド代表。カウンセリング件数約6000件(2024.4月現在)。カウンセリングのほか人間心理や恋愛コラムの執筆も行っている。
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