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職場におけるOJTの課題、新人側・教える側とも最も多い声は「人によって指示や教える内容が異なる」

2025.01.28

OJTは、On the Job Trainingの略。新人を職場に馴染ませ、現場の実務を効率的にキャッチアップする最適な人材育成方法として、多くの日本企業で実施されている。

しかし、人材不足や時間不足などの構造的な問題に加え、属人的で教育の品質にバラつきが出るなどの組織的課題が顕在化しており、従来のOJTでは対応しきれない局面が増え、運用の難度が一層高まっているのが現状だ。

こうした現状を受けパーソル総合研究所は、「OJTに関する定量調査」の結果を発表した。

本調査では、OJTの現状や課題を明らかにするとともに、より効果的な方法論や、教える側・新人側双方に求められる行動や意識について明らかにした。

OJTの実態と課題

新人(新卒・中途)向けの組織的な施策は、新卒の場合、新人研修は47.3%行われている。歓迎会も39.2%、メンターや教育係の配置も35.0%が実施。中途向けには全体的に組織的な施策が少ない。企業規模が大きいほどこうした施策は多く実施されている。

新人側(新卒・中途)が感じるOJTの課題は、「人によって指示や教える内容が異なっている」という課題が最も高い。また、中途は全体的に課題感が高く、特に「マニュアルや書類・業務ツールがそろっていない」「OJTのやり方が計画的でない」が高い。

教える側(企業)が感じているOJTの課題も、「人によって指示や教える内容が異なっている」という課題感が最も強い。中途は、新人側と同様に全体的に課題感が高く、なかでも「マニュアルや書類・業務ツールがそろっていない」が高いほか、「古い教え方のままになっている」という課題感もやや高いのが特徴だ。

教える側(企業)のOJTに関する意識変化をみると、「ハラスメントに気を付けなければいけなくなった」「効率よく教えなければいけなくなった」「新人に教える人が少なくなった」という変化を感じている者が5割を超える。また、年代が上がるほどそうした変化を強く感じている。

新卒新人(Z世代)の就業意識の実態に関して、新人本人に聞いた実態と、教える側の(新人への)予想を見た。教える側の予想以上に、新卒新人の意識が強いのは、「経済的な成長を重視する」「一度就職したら定年まで勤めたい」「会社のために貢献することが重要」といった意識。新卒新人は教える側が思っている以上に、長期雇用重視で、(社会貢献よりも)経済成長重視で、会社貢献意識が強いことが示唆される。

新人の個性や主体性を奪っていくような傾向を「没個性化」として測定し、影響する要素を分析した。職務特性として、仕事の単調さ、成果主義傾向、多忙さは、新人の「没個性化」を招いていることが示唆された。また、既存従業員のマネをさせるような指示、厳しい指導も没個性化に影響を与えていた。

OJTにおける有効な教え方

教える側のどんな行動が、新人のパフォーマンスにつながっているかを見た。「勇気づける」「位置づける」「跡づける」教え方が、パフォーマンスにプラスに影響していた。新卒に対しては「振り返る」も同様の影響。

OJTに対して、教わるネットワークが広く、一人に対して複数人で教わっているほどに、パフォーマンス・組織社会化(社内の人間関係・歴史の理解、業務上の知識やスキルの習得、全体に対する自分の役割の理解)とのプラスの関連が見られた。また、教える側の「出会わせる」行動が新人のエンゲージメントにプラスの関連。

OJTにおける有効な教わり方

教わる新人側の主体的行動力(プロアクティブ行動)と、パフォーマンスとの関連を見た。

「訊く力」「先を読む力」「会う力」「真似る力」「記す力」の5つの行動力が、パフォーマンスにプラスに影響していた。

上記の主体的行動(プロアクティブ行動)の実践が高い層と低い層を比較した。実践度が高い新人のほうが、「仕事に慣れた」と感じる時期が早い。また、個人パフォーマンスや、文化的社会化・職業的社会化・役割的社会化も全体的に高い傾向となった。

新人行動を新卒・中途別に見た。全体的に「会う力」が低く、特に中途の新人が低いのが特徴。新卒のほうが行動が積極的な傾向にあった。年代別には40代以降、多くの行動率が顕著に下がる。

OJTを通じた学び

教える側のOJTを通じた学びの実感を見た。「業務を客観的に見ることができた」「業務の改善ポイントに気が付いた」「自分のスキルや知識を棚卸しできた」などが4割を超える。

教える側のマインドセットについて、回答分布に従って「学び合い」「馴染ませ」「矯正」「その他」の4タイプに分類した。

「学び合い」タイプは、教えることによって学ぶことや新人との学び合いを重視するタイプ。「馴染ませ」タイプは、自社や自組織へ早く馴染むことを優先する。「矯正」タイプは、新人のやり方を自分・自社のものに矯正することを優先するタイプ。

教える側のマインドセット・タイプと変化実感(成長の手応え)の関係をみると、「学び合い」タイプがその他2タイプと比べて圧倒的にOJTを通じた自らの変化を感じている。

教えるマインドセット・タイプとOJT期間中のアンラーニング(新しい知識ややり方の導入)の関係をみると、「学び合い」タイプがその他2タイプと比べて圧倒的にOJTをしながら具体的な変化を起こしている。

■調査結果からの提言

日本企業は伝統的に実務未経験での入社者が多く、現場で働きながらのトレーニング(OJT)によって人を育てる傾向が強い。しかし、その現場でのOJTの難度が近年、構造的/組織的要因によって高まっている。

その要因は、多忙による「時間不足」や年齢構成の歪みから来る「お手本不足」、ハラスメントを恐れた「踏み込み不足」、マニュアルなどが用意されず属人的な教え方しかない「ツール不足」など、多岐に渡っていることが確認された。

こうした状況に対して、「教え方」についてのノウハウは蓄積されてきたし、トレーニングもしばしば行われる。しかし、難度が高まるにつれ、「教わる」新人側の行動の質が重要になってきている。企業は、上司やメンターへの訓練だけでなく、新人側へのインプット拡充を検討すべき時代に来たと言える。

多くの現場では、新人に対し「早くチームに馴染ませよう」「早く一人前になってもらいたい」とOJTを行う。しかしそうした通常のOJTには、組織の仕事のやり方や知識などを温存し、変化適応力の低下を招くという側面もある。ビジネス変化の速い時代に重要なのは、そうした硬直化を防ぎ、新人と教える側が「共に変わり合う」関係を構築していくことだ。

本調査では、新人の参入を機に古い知識・スキルを刷新するためには、教える側の「学び合う」マインドセットが重要であることが示された。常に革新が求められる時代にあって、「教える」という機会は、「変わる」機会でもある。OJTを「現場任せ」にしすぎることなく、組織全体で「変わる」機会に転換させる仕掛けが、人事には求められている。

<調査概要>

出典:パーソル総合研究所

構成/こじへい

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