企業が取り組む“ウェルビーイング”経営の中には、社員や従業員の健康や幸せ、個人の価値を最大限いかす取り組みなど、さまざまな施策が行われている。またさらに視野を広げて、「自社商品やサービス開発に携わる相手」のウェルビーイングを考える企業もある。
「ダース」や「小枝」などのお菓子を販売する食品メーカーの森永製菓株式会社は2008年から、会社全体のサステナビリティ活動として『1チョコ for 1スマイル』というプロジェクトを実施している。チョコレートの原材料であるカカオ生産国を、支援パートナーであるNGOを通して支援するもので、年間を通しての寄付や、森永チョコレート等の商品を購入することで消費者も寄付に貢献できる特別期間を設けている。これまでにガーナ、インドネシア、フィリピン、グアテマラ、エクアドル、カメルーンの6か国を支援し、これまでの支援総額は約 3 億 1,773 万円にのぼる(2024年2月時点)。
日本の自宅でカカオ栽培に挑戦 チョコレート開発者として「その土地のことを知っていないといけない」
森永製菓株式会社の『1チョコ for 1スマイル』/写真提供:森永製菓株式会社
23年には森永製菓・コーポレートコミュニケーション部の渡辺啓太さん、植竹麻衣子さん、同社研究所のシニアエキスパートでチョコレートソムリエの資格を持つ小野隆さんがカカオ生産国・ガーナを訪問し、支援の様子や現状を実際に見てきている。
(森永製菓の『1チョコ for 1スマイル』活動詳細やカカオ生産国の現状はこちら:前編・中編記事)
森永製菓が〝会社ごと〟として取り組む活動「1チョコ for 1スマイル」とは?
昨今、“ウェルビーイング経営”に取り組む企業が増えている。自社で働く従業員や消費者だけにとどまらず、「自社商品やサービスを生み出すために関わる相手」のウェルビー...
「カカオを作りたくない」チョコレートを取り扱う森永製菓がガーナを訪問して知った現実
企業が取り組む“ウェルビーイング”経営の中には、社員や従業員の健康や幸せ、個人の価値を最大限いかす取り組みなど、さまざまな施策が行われている。またさらに視野を広...
「会社のサステナビリティ活動」として『1チョコ for 1スマイル』を進める森永製菓の社屋には、鉢植えで栽培されているカカオの木4鉢が展示されている。これは適切な申請・検疫の上、許可を得て輸入したカカオポッドから小野さんが育てたもの。記事後編では小野さんが育てたカカオの木について、そして『1チョコ for 1スマイル』の周知活動や今後についてお聞きした。
DIME WELLBEING(以下、D):社屋に飾られているカカオの木は小野さんが育てられたと聞きました。なぜカカオの木を日本で育ててみようと思ったのですか。
小野隆さん(以下、小野):仕事でチョコレートの開発にずっと携わっていたのですが、「大元の『カカオのこと』を知らないでチョコレート作りをしているのはどうなのかな」と疑問に思ったのです。今回ガーナにいき、「その土地のことを本来知っていないといけない」という思いを改めて感じました。これまでも、世界のカカオ農園を何か所かまわって歩いていたのですが、「実はカカオのことをよく知らない」という開発責任者として負い目がありました。
23年に現地訪問したガーナで栽培されているカカオポッド/写真提供:森永製菓株式会社
そこで自宅で栽培し始めました。沖縄にベトナムのカカオを育てている方がいて、その一部をもらったりもしました。また、メキシコのソコヌスコという地域の、歴史的に貴重なカカオも研究所の建屋に持ち込んでいます。失敗してひとつ枯らしてしまいましたが、今育てているものはメキシコ産の4鉢で、今年で5年目になります。いろんな国のカカオを育てました。
D:自宅でカカオ豆から育てたのですね。
小野:カカオ豆から土にいれて、どういう風に芽が出るのか興味あって。怪獣の形みたいな芽の時もありました。何度くらいの温度がいいかなど自分で場所を変えて調べ、「冬場で10度を切ると枯れる」など、傾向が分かってきました。1年半くらい自宅で30鉢育てていたのですが……。
D:自宅で30鉢ですか! すごいですね。
『1チョコ for 1スマイル』に取り組む渡辺さん、小野さん、植竹さん
小野:でも虫は飛ぶし、何より場所をとるので家族に不評で(笑)。切らないと、幹がすぐ10mくらい伸びますし。一時的に、千葉県の熱帯植物園に預けました。
D:そこから森永製菓へ移したのですか?
小野:森永製菓の研究員でも、チョコを作っているのに「カカオを見たことがない人」がたくさんいて、生で見る機会もないので、こちらに持ってきました。といっても全ては置けないので、残ったものは大学などいろいろなところに譲渡しました。
D:育ててみていかがでしたか。
小野:カカオが神秘的なものだというのがわかりました。カカオは花が幹に直接つくのですが、そういう植物ってあんまりないです。枝の先ではなく、幹に小さい花が直接咲く。小さい花なのに、あんなに大きいラグビーボールのような実が、落ちることなくついている。不思議です。
D:森永製菓の社屋で育てているカカオも、実がなるのですか。
小野:ここでは実はならないのですが、千葉県の熱帯植物園に置いていた時は実がつきました。でもチョコレートは作れない大きさでした。それからカカオは、実はチョコになる前の生の状態もおいしいんです。
ガーナで撮影した乾燥させたカカオ豆/写真提供:森永製菓株式会社
D:チョコレートに加工しなくても食べられるのですか!
小野:実はカカオってフルーツなんです。カカオの中に入っているものが豆ですが、学術上では「豆」といわず「カカオ種子」と呼びます。カカオ種子はヨーグルトみたいな酸味のある味で、ライチやバナナ、マンゴスチンのようです。果物として食べている国もありますし、
南米の方ではおやつで食べています。
直接経験するから分かること 「お金を出して筆記用具を送る」支援とは別物
ガーナでは実際にカカオに触れる体験も/写真提供:森永製菓株式会社
D:カカオを栽培したことで社内の反応はありましたか。
小野:カカオ豆を自分たちで作ったことで、従業員たちも「カカオってこういうものなんだ」と感じる部分はあったと思います。最初は「えっ」とびっくりしても、実際に鉢を置いたらみんな見るし、来訪者に案内や説明もできます。そこでまた、カカオの国のことを知ってもらえます。
カカオを育てることでカカオ原産国について知ってもらえる機会を増やす
D:『1チョコ for 1スマイル』でも実際にガーナに行かれていますが、実際に経験・体験してみることで分かることがありますね。
小野:相手の顔を見ることもすごく大事だと思いました。ガーナを訪問した時も「よく来てくれた」と迎えていただきました。直接現地の方に会うと、「ただ日本からお金を出して筆記用具を送る」という支援の仕方とは、感覚が変わってきます。
渡辺啓太さん(以下、渡辺):私たちはガーナで村長さんにもお会いしました。児童労働を防止するために見守りなどをする「子ども保護委員会(CCPC)」という組織の正式名称も、渡航前はなかなか覚えられませんでしたが、会うとすぐに覚えることができました。「この方たちのことか!」と。熱量や意識が変わります。
植竹麻衣子さん(以下、植竹):私たちはチョコレートを扱う会社だけでなく、チョコレートを食べている方にも気づきを得ていただくことが使命。「無関心、知ろうとしないこと」も間接的にカカオの国の児童労働に加担していることになるので、世の中全体が変わると、チョコレートが“もっといいもの”になっていくかもしれない。みんなで気づきを得られる活動をしていきたいです。