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世界初の木造人工衛星「LignoSat」が示した木材の新たな可能性

2024.12.25

これまで@DIMEで、何回か報じてきた「LignoSat(リグノサット)」。京都大と住友林業が共同開発した世界初の木造人工衛星だ。一辺が10cmのキューブ型をしたリグノサットの試作機が、国際宇宙ステーションからロボットアームを使い、宇宙空間に放出されたのが12月9日。筑波宇宙センター管制室の横のVIPルームで、スクリーンに映る放出の瞬間に立ち会った住友林業の苅谷健司(55)は、管制室のスタッフの拍手に包まれた。

世界初の木造人工衛星の主なミッションは、過酷な宇宙空間での木造の立方体内部の温度分布や木のゆがみ等を調べ、木の可能性を観測することにあった。運営拠点がある京大構内の研究室で、研究者たちはリグノサットから送られてくる電波を今や遅しと待っていた。 

前編はこちら

京大と住友林業が開発した世界初の木造人工衛星「LignoSat」が宇宙空間に放出成功…しかし!?

世界初の木造人工衛星「LignoSat(リグノサット)」。木は大気圏に再突入する際、炭素と酸素と水素に分解され、宇宙環境に悪影響を及ぼす金属粒子を発生させない。...

問題点は何だったのか

放出1時間後の北米大陸のアマチュア無線家からの電波受信の第一報の期待はかなわず。木造人工衛星は90分で地球を一周する。放出の翌日の朝、運営拠点にもっとも近い上空を通過したが、木造人工衛星との通信は途絶えたまま。苅谷健司は言った。

「研究スタッフは衛星との通信をトライし続けていますし、まだ、あきらめたわけではありません」

これが前編、12月9日までの状況だったがーー

放出8日後の17日現在、リグノサットとの交信は依然、途絶えたままである。プロジェクトの初期から携わっている住友林業、筑波研究所住宅・建築第2グループ、マネージャー苅谷健司は言う。

「最悪の状態として、こういうことがありうると、想定はしていましたが……。通信できない理由として考えられるのは、まず電源が入っていないケースです」

リグノサットはj‐SODD(ソット)という筒状のコンテナに収納されている。ロボットアームで宇宙空間に移動しJ‐SODDの入口が開くと、内蔵されたスプリングの力で人工衛星は外に押し出される。と、同時に電源スイッチがONになり通信可能になるが、その仕組みに何らかのトラブルが生じたのか。苅谷は言う。

「筒状のJ‐SODDはJAXAが設計し製作したものです。事前にJ‐SODDを借り入れて京大の研究室で何度もフィットチェックをして、放出時に電源がONになることを確認したのですが……あるいは」苅谷は言葉を続ける。

「電源は入っているが、アンテナが開かないケースも考えられます。電源が入って30分後にプログラムが作動し、ニクロム線を焼き切って、アンテナが開くことになっていました。でも十分な温度に達せず、ニクロム線を焼き切ることができなかったのかもしれない」

通常の人工衛星はアンテナを外部に展開して通信手段を得るが、木は電波を通しやすい。木造はアンテナを衛星の内部に組み入れることができる利点があるが、試作1号機は外部アンテナを採用している。

リグノサット2号機の構想

1年ぐらいは地球の軌道を周回し、宇宙空間での木材の基礎データを取りたい。今は通信インフラ等に、障害を及ぼすといわれる太陽フレアの活動が、最大期に入っている。1号機の寿命は2~3ヶ月かもしれない。

研究スタッフの間では、そんな会話がなされていたのだが。通信不能の状態ではなす術がない。宇宙に放出された木造人工衛星の回収は不可能である。苅谷は言う。

「今回の宇宙空間への放出とタイミングを同じくして、『ウッドデザイン賞』表彰式がありまして。応募したリグノサットが奨励賞を受賞したんです。木製人工衛星に木材業界、林業界の注目が高まったところでしたから、出ばなをくじかれたと言いますか……、正直言って、ガクッときてないと言えばウソになりますが、まだあきらめたわけではないので……」

宇宙曝露した木材試験体

さてどうするか――。苅谷は言葉を続ける。

「もう一度、1号機を作り直して、1年ほど先に再チャレンジをするか、あるいは3年後ぐらいを目指して、2号機の開発に集中するか。結論は出ていません。

2号機はサイズを倍にする。つまり10cm角のキューブを2つくっつけ、中を一体にして。アンテナも内蔵する。地磁気ジャイロによる姿勢制御機構も取り入れるようと、計画しています。いずれにしろ、よりシビアな衛星の検証環境を整えることが必須ですね」

世界初、木造人工衛星の地球が周回中

何万もの小型人工衛星を宇宙空間に網の目のように展開する、イ―ロン・マスク率いるスペースX社のスターリンク計画が進行中だ。一方で、宇宙環境に悪影響を及ぼす宇宙デブリ(ゴミ)は、深刻な問題をはらむとクローズアップされる。従来の小型人工衛星は役目を終え大気圏に再突入し燃え尽きる際、宇宙空間に金属粒子をまき散らす。だが木造人工衛星は燃え尽きても炭素と酸素と水素に分解され、微粒子デブリの放出は皆無である。

プロジェクトの中心メンバーの一人、宇宙飛行士で現在、京大特任教授の土井孝雄氏が提唱する「将来的に宇宙環境の保護のため、地上400kmぐらいの軌道を周回する人工衛星は、すべて金属の使用を禁止すべきだ」という提唱が、現実味を帯びている。

苅谷は気を取り直したような口調で言う。「NASAやJAXAのレーダーで、リグノサットが地球を周回していることは、確認できています」。主目的であるデータの収集はかなっていないが、世界初の木造人工衛星が現在、地球の軌道を周回している。それだけに目を向ければ、成功ともいえる。

イノベーションにトライアンドエラーは付きものである。彼は言う。

「将来的に木造衛星をスターリンクに適した50cm角ぐらいの大きさにして、スペースX社のイーロン・マスクに売り込みに行く、今回の足踏みで、そんな思いがますます強くなりました」

取材・文/根岸康雄

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