これまで800社以上の働き方改革を支援し、各社に在籍する従業員の言動と成果との因果関係も分析してきました。成果を出し続ける人の言動を調査すれば、再現性のある行動ルールを導き出せると思ったからです。分析対象は、人事評価がトップ5%の社員(以下〝5%社員〟)の4年間にわたる言動。ICレコーダーによる録音やオンライン会議の録画などのデータを使って対象者の言動を集積し、AIで解析しました。その結果〝5%社員〟はほかの社員よりもため息をつく頻度が約20%多いことがわかったのです。しかも、周りに聞こえないようにこっそりと済ませるのではなく、堂々と「ハ~ッ!」と、吐き出すようにため息をつきます。その理由について〝5%社員〟に聞くと、大きく3つの回答があがってきました。
ため息=深い呼吸によってストレスを発散!
1つ目は、ストレスの発散です。成果を出し続ける〝5%社員〟でもストレスはたまるもの。社内の抵抗勢力を説得したり、予定どおりにプレゼンができなかったりと、思うようにいかないことはたくさんあるそうです。しかし彼らは、失敗を失敗で終わらせません。失敗の先に成功があることを理解していて、失敗で得た教訓を次の挑戦に生かそうとします。
失敗して落ち込むだけでは進化はないと考え、失敗によって抱えてしまったストレスを、軽いジョギング、早歩きの散歩、サウナの入浴などとともに、ため息をついて発散させているのです。呼吸器の専門医によれば、ため息は深い呼吸をしている状態で、脳の働きを良くして精神的な落ち着きをもたらす効果があるとか。呼吸が浅くなりがちな仕事中には、深い呼吸で酸素を脳にたっぷり入れて、思考を活性化させましょう。
ため息は〝初動を早める〟儀式のひとつになる
さらにヒアリングを進めてみたところ〝5%社員〟は「苦手と思っている仕事」に取りかかっている時に、より多くのため息をつくことがわかりました。彼らは「やる気が出るのを待って仕事をする」のではなく「仕事を始めることで〝作業興奮〟状態にしてやる気を出す」という働き方を身につけています。そのため、ほかの一般社員に比べて〝5%社員〟は圧倒的に初動が早く、やる気が出ない状態でも仕事を引き受けてからすぐに取りかかります。仕事を始めるのが早いので、結果的に締め切り前に作業を終えることが多く、次の仕事に関する初動も早いというわけです。
そんな〝5%社員〟は取りかかるのに躊躇してしまうほど苦手な仕事に直面した際にも、ため息を活用。「しょうがない。やるか~!」という意味を込めてため息をつき、仕事のスイッチをオンにします。このような、作業前に行なう自分なりの儀式(マイルーティン)があれば、やる気の有無や得意・不得意にかかわらず、作業に取りかかれるようになるでしょう。
ため息をして弱みを見せることで周囲を巻き込める
苦手な仕事に取りかかる時に発するため息が、周囲にどんな影響を与えるのかもわかりました。〝5%社員〟がつくため息の多くは、スポーツ選手が競技前に気合いを入れるように「ハ~ッ!」と強く前に吐き出すので、周囲からは不快に思われにくいそうです。それに加えて、5%社員の多くが「さて、苦手なExcelの分析をやるか……」と、不得意な作業に取りかかる宣言を、周囲に発しているのもポイント。「あの人、意外にもExcelが苦手なのか」「できる人にも不得意な作業があるのですね」「実は、人間味のある人かも」と、良い印象を与えることにもつながります。
ため息をつきながら苦手な作業のことを口にすると、稀に「それ、代わりにやりましょうか?」という人が出てきます。もちろん誰かに手伝ってもらいたいから、ため息をついているわけではないでしょう。しかし、デキるビジネスパーソンは何でも自分ひとりで解決しようとはしません。苦手なことを口に出し、周囲と補完関係を築くという〝心地よいスマートな貸し借り〟を行ないます。そんな〝5%社員〟の突出した「巻き込み力」は、ぜひ身につけたいものです。ストレスを発散しつつ初動を早め、周囲との協力関係も構築する〝5%社員〟のため息を、あなたも仕事に取り入れてみては?
ため息を活用しつつ、メンバーの「強み」と「弱み」を掛け合わせて成果を出そうと心がけるのも〝5%社員〟に見られる傾向。例えば「プレゼンは得意だがデータ分析が苦手」という人には、プレゼンの機会を増やし、データ分析は別の得意な人に任せます。データ分析を代わりにしてくれた人には「資料作成を手伝ってあげる」というように〝Give&Get〟の観点で補完関係をつくりましょう。
文/越川慎司
全員がリモートワーク・複業・週休3日を実践するクロスリバー社の代表取締役。1000名以上がリモートワークをしているキャスター社の執行役員。
800社17万3000人のAI行動分析でわかった「仕事の無駄」を絶つ超タイパ仕事術
「時短を意識して仕事を進めるためには、一日を通して計画的に準備することが大切です。仕事時間だけに意識を傾けるのではなく、働く前後の時間を有効に活用することも心がけましょう。精神を落ち着かせることや、リフレッシュのための時間を確保することで、仕事時間中の効率が高まり、結果的には時短につながります」と話すのは、ビジネスコンサルタントの越川慎司さん。複業・週休3日を実践しながら800社へ働き方改革のノウハウを提供し、24冊以上のビジネス書を執筆している、まさに仕事の達人だ。同氏がこれまでに働き方改革を支援してきたのは800社以上にのぼる。クライアント企業の優秀なビジネスパーソンに見られる行動を分析して導き出した、業務の無駄を徹底的に省き、仕事のタイパ(タイムパフォーマンス)を高める方法を著書「最速で結果を出す超タイパ仕事術」で詳しく解説している。