捺印と押印の違いから、正しい捺印の方法、ビジネスマナーまで分かりやすく解説します。ビジネスシーンで脱ハンコが進む背景や、電子捺印を導入する際のポイントもチェックしましょう。
目次
捺印と押印の違いは?
ビジネスシーンでもよく使用される『捺印』と『押印』の違いを、正確に理解している人は意外と少ないかもしれません。ここでは、捺印と押印の定義や違い、関連する用語について詳しく解説していきます。
■捺印は『署名捺印』の略
捺印は、自筆の署名に加えて印鑑を押す行為で、本人確認をより確実にすることを目的としています。署名と組み合わせることにより、筆跡鑑定などを通じて本人によるものであると証明しやすくなるからです。
そのため、捺印は法的効力が高いとされています。ビジネスシーンでは、重要な契約書や法的文書に捺印を求められることが少なくありません。
ただし、署名されていない書類に、ただ印鑑を押すだけの行為を捺印と呼ぶ場合もあるため、使い分けに留意が必要です。
■押印は『記名押印』の略
押印は、自筆の署名のない書類に印鑑を押すことです。例えば、あらかじめ名前が印刷された書類などに、印鑑を押すことを指します。押印は、捺印と比べて証拠能力が低いとされますが、一般的にはよく用いられる言葉です。
書類の内容を確認したことを示す意味合いがあり、ビジネスシーンでも求められるケースが多くあります。ただし、押印だけでは本人の意思確認が不十分な場合もあるため、重要な書類では署名と組み合わせた『捺印』が必要になるので注意しましょう。
■捺印・押印に関連する用語
捺印・押印に関連する用語として、印章・印鑑・印影があります。印章は、一般的に『ハンコ』と呼ばれているものです。
一方、印鑑もハンコを指す言葉ですが、厳密には役所や銀行に登録された印章のことを指します。しかし、日常生活では『印鑑=ハンコ』と認識されることが多く、普段の生活で厳密に使い分ける必要はありません。
印影は、印鑑を書類などに押したときに残る跡のことを指します。
捺印・押印の正しい方法と注意点
日頃、何気なく捺印・押印をしている人も多いでしょう。しかし、正しい押し方をしないと、書類が無効になってしまう可能性があります。書類への正しい捺印・押印の方法や、契約書特有の捺印の種類について解説します。
■書類への捺印・押印の正しい方法
書類に捺印・押印する際は、印鑑証明書の添付が必要かどうかで方法が異なります。印鑑証明書が必要な書類では、印影を明確にする必要があるため、書かれている文字と重ならないように押しましょう。
一方、印鑑証明書が不要な場合は、氏名に少し重ねるようにして押します。これにより、後から氏名を偽造することを防ぐためです。
きれいに押すコツは、印鑑の持ち方と押し方にあります。印面の近くに人さし指を当て、親指と中指で支えて、まっすぐに押し下げましょう。
朱肉は、適量を複数回に分けて付け、平らな場所で押すのがポイントです。また、印鑑用マットを使うと、印影がこすれにくくなります。
■捺印が必要となる代表的な書類
捺印が必要となるのは、主に契約書・申請書などの重要な書類です。例えば、不動産売買契約書や会社設立時の定款など、重要な取引・手続きに関わる書類を作成する際は捺印が必要になります。
これらの書類では、本人確認や法的効力を高める必要があるためです。また、近年では印鑑レスの銀行も増えていますが、預金口座を開設する際にも捺印を求められます。
書類によっては、捺印に使う印鑑が指定されるケースもあるので、取引の重要度や相手先の要求に応じて適切なものを使用することが大切です。
■契約書への捺印の種類
契約書への捺印には、さまざまな種類があり、それぞれ意味や目的が異なります。
- 契印:複数ページの連続性を示すため、見開き部分に押す
- 割印:原本と控えが同一であることを証明するために使用される
- 訂正印:文面の修正時に必要で、二重線で消した部分に押す
- 消印:収入印紙の再使用を防ぐ
- 捨印:事前に余白に押しておく。訂正があったときに訂正印として使う
- 止印:文書末尾の余白に押し、不正な追記を防止する
これらの捺印は、契約書の内容や状況に応じて、適切に使い分けることが重要です。特に、捨印は相手に訂正を許可することになるため、重要な契約書では慎重に判断する必要があります。
捺印する場合は、事前に用途を確認し、写しを保管するなどの対策を取ることが大切です。
印鑑の種類や効力の違い
印鑑にはさまざまな種類があり、それぞれ異なる役割と法的効力を持っています。印鑑の種類や使い分け方のほか、印鑑証明書が求められる場面について詳しく見ていきましょう。
■実印・銀行印・認印の違い
実印・銀行印・認印は、それぞれ使用する場面が異なります。
- 実印:市区町村に登録した印鑑で、最も重要な契約や取引に使用されるもの。本人確認に使われる
- 認印:日常的に使用される印鑑。法的な効力はないが、書類の確認や承認の意味合いで使われる
- 銀行印:金融機関に届け出た印鑑。口座開設や預金の引き出しなどに使用される
実印として登録できるのは、一人1本のみです。たとえ家族でも、同じ印鑑を登録することはできません。
偽造防止のために、複雑な書体で作成されることがよくあります。一方、認印は一人が複数所有することも可能で、読みやすい書体になっているのが一般的です。
■印鑑証明書が必要なケース
印鑑証明書とは、市区町村に実印として印鑑を登録した際に発行される書類です。本人の印鑑であることに間違いないと公的に証明するもので、主に不動産取引や高額な契約時に必要となります。
具体的に求められるのは、不動産の売買やローン契約・賃貸物件の契約・自動車の購入や売却・保険契約・会社設立などの場面です。これらの取引では、『実印を押したのは本人であること』を証明するため、実印の押印に加えて印鑑証明書の提出が求められます。
印鑑証明書自体に有効期限はありませんが、『3カ月以内に発行したもの』など、取得時期を指定される場合もあるでしょう。重要な取引の際は、事前に印鑑証明書の必要性や有効期限を、確認しておくのがおすすめです。
捺印・押印に関するビジネスマナー
捺印・押印に関するビジネスマナーについても、確認しておきましょう。ビジネスシーンでよくあるケースを、例に挙げて解説します。
■会社で使われている印鑑の種類
会社では、さまざまな種類の印鑑が使用されています。主に使われているのは、代表者印(丸印)・角印(社印)・認印・ゴム印などです。
- 代表者印(丸印):最も重要な印鑑で、会社の実印として登記所に登録されているもの
- 角印(社印):認印の一種で、日常的な社外文書に押印するもの
- 認印:社内文書や簡易な手続きに使われるもの
- ゴム印:ゴム版に社名・住所・電話番号・代表者名などが彫られたもの
これらのほかに、個人と同様に銀行印も使われています。それぞれの役割と重要性を知り、適切に使い分けましょう。
■契約書以外で捺印が必要な場面
契約書以外にも、社内で捺印が必要となる場面は多々あります。例えば、稟議書や決裁書といった上司の承認を得るための文書には、通常捺印が必要です。
これらの文書では、複数人の承諾を得ることが必要なケースが多く、捺印は誰が承認したかを明確にする役割を果たします。休暇申請書や勤怠管理表などにも、上司・管理担当者の捺印が必要なのが一般的です。
また、社外向けの文書では、請求書や見積書などに捺印が求められることもあります。
■斜めに捺印するお辞儀ハンコ
稟議書など複数の承認が必要な書類で、部下が上司の印に対して左斜めに傾けて押すことがあります。これは『お辞儀ハンコ』と呼ばれるもので、一部の企業で慣習化されているマナーです。
左に傾けて捺印するのは、相手に対する経緯を示すためといわれています。しかし、一般的なビジネスマナーではないため、必ず左に傾けて捺印しなければならないというわけではありません。
また、慣習とされる企業でも、社内文書のみに適用されるマナーです。転職した場合などは、お辞儀ハンコのルールがあるか確認しておくとよいでしょう。